2019年8月15日 2:27 pm

生涯の中で、心身ともに著しく成長・発達する乳児に食事を提供している保育園では、大きな責任を感じながら、毎日の離乳食作りを行っています。
 今年3月、2019年改定版がとりまとめられた「授乳・離乳の支援ガイド」。改定の研究会に参画した、調理学・母子栄養学・食育関連分野が専門の堤 ちはる先生に、ガイドの考え方や、保育園給食に関わる私たちが知っておきたいポイントを聴きました。

 

子どもの成長に関わる皆さんへまず理解してほしい「育児支援の視点」

今回の改定では「育児支援」の視点が重視されています。親の不安を解消すること、親に寄り添うことです。さまざまな情報が溢れるなか、慣れない授乳、離乳で生じる様々な問題点に対して、親の気持ちや感情を受け止め、寄り添いを重視した支援を促進しようという考えです。マタニティーブルーや育児の孤立で、だれにも聞けないという環境の人たちに手を差し伸べ、どこに悩みや問題点があるか察知した上で、正しい知識を提供するのです。これまでは主に知識や技術の提示も多かったのですが、今回の改定では、「まずは心を受け止めましょう」というのが基本的な姿勢です。
 授乳・離乳の支援推進に向けては、下記の図のように多機関、多職種の保健医療従事者(医療機関、助産所、保健センター等の医師、歯科医師、助産師、保健師、管理栄養士等)が基本的な事柄を共有し、妊娠中から離乳の完了に至るまで、支援内容が異なることがないように一貫した支援を行うことが望まれています。保育園においても、基本的な支援の在り方を理解した上で、多機関・多職種と支援の内容が異なることがないよう実践することが求められています。

 

改定の主なポイント

下記4つが大きなポイントです。新たに食物アレルギーに関する記載が盛り込まれました。

 

(1)授乳・離乳を取り巻く最新の科学的知見等を踏まえた適切な支援の充実

食物アレルギーの予防や母乳の利点等の乳幼児の栄養管理等に関する最新の知見を踏まえた支援の在り方や、新たに流通する乳児用液体ミルクに関する情報の記載。

 

(2)授乳開始から授乳リズムの確立時期の支援内容の充実

母親の不安に寄り添いつつ、母子の個別性に応じた支援により、授乳リズムを確立できるよう、子育て世代包括支援センター等を活用した継続的な支援や情報提供の記載。

 

(3)食物アレルギー予防に関する支援の充実

従来のガイドでは参考として記載していたものを、近年の食物アレルギー児の増加や科学的知見等を踏まえ、アレルゲンとなりうる食品の適切な摂取時期の提示や、医師の診断に基づいた授乳及び離乳の支援について新たな項目として記載。

 

(4)妊娠期からの授乳・離乳等に関する情報提供の在り方

妊婦健康診査や両親学級、3~4か月健康診査等の母子保健事業等を活用し、 授乳方法や離乳開始時期等、妊娠から離乳完了までの各時期に必要な情報を記載。

食物アレルギーへの対応

ガイドラインでは、食物アレルギーの発症を心配して、離乳の開始や特定の食物の摂取開始を遅らせても、食物アレルギーの予防効果があるという科学的根拠がないことから、生後5~6か月に離乳を始めるように推奨しています。
 また、離乳食を進めるにあたり、食物アレルギーが疑われる症状がみられた場合は、自己判断で対応せずに、必ず医師の診断に基づいてすすめ、必要な栄養素等を過不足なく摂取できるような離乳食を提案、提供することが求められています。
 さらに、子どもに湿疹がある場合や既に診断がされている場合、または離乳開始後に発症した場合は、基本的には原因食物以外の摂取を遅らせる必要がないことが示されています。

 

離乳食の役割

 授乳・離乳を取り巻く社会環境は変化しています。改めて、離乳食の役割を押さえておきましょう。

  • エネルギー・栄養素の補給
  • 摂食・嚥下機能の発達の増強
  • 食行動の発達
  • 精神発達の助長
  • 味覚の発達
  • 正しい食習慣の確立  などがあります。

 この時期から生活リズムを意識し、健康的な食習慣の基礎を培い、共に食事をとりながら食べる楽しさの体験を増やしていくことで、一人ひとりの子どもの「食べる力」を育むための支援が推進されることが基本となります。

 

 

授乳・離乳の支援ガイド」_2019年改定版

「授乳・離乳の支援ガイド」は、妊産婦や子どもに関わる保健医療従事者が基本的事項を共有し、支援を進めていくことができるよう、保健医療従事者向けに平成19年3月に作成されました。作成から約10年が経過するなかで、科学的知見の集積、育児環境や就業状況の変化、母子保健施策の充実等、授乳及び離乳を取り巻く社会環境等の変化がみられたことから、厚生労働省では、学識研究者等による「授乳・離乳の支援ガイド策定に関する研究会」(座長:五十嵐隆 国立成育医療研究センター理事長)を2018年11月~2019 年3月に開催。支援ガイド策定に向けて検討を行い、2019年3月29日、改定版がとりまとめられました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11908000/000496257.pdf(厚生労働省ホームページ)

 

離乳のすすめ方

月齢や体重だけで画一的に進めるのではなく、保護者、保育者、調理員が連携をとり、乳児の発育・発達、日々の体調等について把握し、個々に合わせて離乳食を提供していく必要があります。子どもの食欲、摂食行動、成長・発育パターン、あるいは地域の食文化、家庭の食習慣などを考慮した無理のない離乳を下記の内容を意識して進めましょう。

  • 食べる意欲を大切にする
  • 個人差に配慮して焦らずに進める
  • 生活リズムを整えるために、決まった時間に離乳食を与える
  • 決まった場所で、楽しくおいしく食べられるように環境・雰囲気を整える
  • 共食を通して、食の楽しさやコミュニケーションを図る
  • いろいろな食品の味や舌触りを楽しみながら食体験を増やすことを目指す

厚生労働省「授乳・離乳の支援ガイド」 厚生労働省「保育所における食事提供ガイド」 大阪市こども青少年局「にこにこ~赤ちゃんのために~」 公益財団法人母子衛生研究会「パパと赤ちゃんの離乳食応援BOOK」をもとに作成

離乳の開始と完了の適切な時期

開始時期は生後5 ~ 6か月頃が適当ですが、月齢はあくまでも目安なので、「食べたがっているサイン」等、子どもの様子をよく観察することが大切です。
 離乳の完了とは、形のある食べ物をかみつぶすことができるようになり、エネルギーや栄養素の大部分が母乳、育児用ミルク以外の食物から摂取できるようになった状態をいい、その時期は12 ~18か月頃です。離乳の完了は、母乳や育児用ミルクを飲んでいない状況を意味するわけではありません。
 離乳については、子どもにはそれぞれ個性があるので、画一的な進め方にならないよう留意します。

 

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