みんなで作って食べるからおいしい!
好奇心がふくらんで、ワクワクの毎日

Vol.12 おおわだ保育園

USER NAMEおおわだ保育園

子どもの視点で考え、
アイデアを実現し、幸せと感じられる社会を
作っていきたい

遊具で食べる給食は最高!

かまどの火起こしをお手伝い

訪問したのは…

施設名

社会福祉法人友愛福祉会 
幼保連携認定こども園
「おおわだ保育園」

所在地

大阪府門真市野里町41-39

URL

http://oowada.ed.jp/

紹介

おおわだ保育園は現在定員181人。「心を伝える保育」を保育指針に、「あそぶ・わらう・たべる」を通して、生活習慣や生きる力を身につけることを理念に掲げます。子どもの能力と感性を育む「あそぶ・わらう・たべる」は、日々見える形で実践され、そこに「思いっきり」がプラスされてよいサイクルが生れるように、全職員が一体となって動いています。

あそぶ

  • 体を使って遊ぶ…いつでも、どこでも遊べる環境(園庭・体育館・遊技場・プール)
  • 知的に遊んで想像力を養う…図書室・おもちゃ室
  • 自然の中で遊ぶ…保育園バスによるミニ遠足(近隣緑地公園)

わらう

  • 「ありがとう」と言える
  • 元気にあいさつができる
  • 思いやりがある(異年齢交流、お手伝い)
  • ユーモアがある(ボケとツッコミのセンス)
  • 好奇心とやる気がわく

たべる

  • 野菜を育てて食べる(畑での苗植えと収穫)
  • 楽しく食事をいただく(友達同士の会話、散歩先での給食弁当)

しっかりと生きていく上で必要な力を育み、
のばすためにできること

小麦・卵・乳製品を使わない「なかよし給食」を考案・実践し、全国的に名の知られた「おおわだ保育園」。
理事長の馬場耕一郎先生は、子どもたちの一番の理解者として、既存のやり方を見直し、次々と新しいアイデアを形にしています。
平成 30 年4月に施行された「保育所保育指針」の改定にも携わられました。
子どもたちがのびのびと力いっぱい活動する様子を通して、私たちが見習えることを探ります。

有事のときに立ち向かえる心を炊きだしも体験を通して日常に

大阪府門真市の住宅街にある「おおわだ保育園」。まず驚くのは、園庭の中央に砂場があること。砂場を中心に子どもたちが遊ぶ姿は、まさに思いっきり!馬場耕一郎先生は「子どもの遊びで人気があるものを真ん中に位置づけています。行事のときはどうする?という声もありましたが、日々の遊びを重視しています。砂場の横には、田んぼを作りました」と園庭を案内してくれました。

この日は、災害時を想定した「炊きだし訓練」の日。屋根付きの遊技場では、栄養士・調理担当の先生を中心に、炊きだしの準備が進んでいます。「3.11を風化させないよう年1回行っていましたが、その頻度だと上手くいきません。であれば毎月にしようと。昨年4月からやりはじめ、職員も子どもたちもイメージできるようになってきました。そこに、6月18日の大阪府北部地震がありました。当日は給食中心に切り替え、豚汁を食べて帰ってもらおうと。上手く連携が取れましたね。」

豚汁を囲みながら、4歳児の女の子が「よかった」と口にし、改めて“食事のすごさ”を感じたそうです。「子どもの不安な気持ちを払拭する力が、温かい豚汁にあるんだと。炊きだしは非日常ですが、非日常を日常化することが、災害対策の中で大切だと。食具が変わると食欲が落ちる子どもたちにも、あえてプラスチックの食具で、バタバタした配膳にも慣れさせる。有事のときに必要な力になります。悲壮感ではなく、大丈夫、怖くない、炊きだしが食べられてラッキーくらいのほうが、メンタル的に強く立ち向かえるのではと感じています」

また、訓練で子どもたちは、調理に積極的に関わることで、当事者意識が持てます。それが思いっきり食べることにもつながっています。馬場睦代先生は、「子どものことを中心に考えていると、現場もうまく回りますよ」と話します。

先生たちは、子どもたちができる体験を増やすようサポートします。

子どもたちの未来につながるみんなで食べる「なかよし給食」

おおわだ保育園が大切にする、「食べる体験を通して、生きる力をのばすこと」。目の前の課題に追われるだけでない、先を見据えての活動が日々にちりばめられています。そのベースにあるのが、みんなで食べる「なかよし給食」です。

始まったのは2010年。食物アレルギーの主な原因物質である卵・乳製品の完全除去からスタート。今では、小麦・卵・乳製品を使わない献立になり、2冊目となるレシピ本も今年発売されました。

厚生労働省のデータでは、約25%の園が誤配・誤食事故を起こしている実態があります。現場でさまざまな対策を講じても防ぎきれない事故をゼロにするために、みんなで同じ給食を食べられるように、との思いからでした。

「私の二男が食物アレルギー児です。誕生日会で、死んでもいいから食べたいと泣いたことがありました。子どもは、みんなと同じものを食べたいという欲求が、大人以上にあるということを経験しました。この出来事が、そもそものきっかけです。食事は毎日なので、つらい、わびしい、かなしい食卓は長続きしません。我が家の除去レシピをベースに、栄養価を落とさず、みんなが同じものを食べられる給食献立を作ることができました」と馬場耕一郎先生。

馬場睦代先生は、「アレルギー除去食は手間がかかり、材料が見つけづらく、コストもかさむ。イメージが悪いですよね。一方、小麦・卵・乳製品を完全除去するなかよし給食は、材料を複数調達する必要がなく、調理はレーン別、エプロンや洗いは別ということもなく、かける人員は同じ。調理の現場も助かると思います。現状の体制を変えましょうというと、絶対大変!となりがちですが、やってみると時間にゆとりが生まれ、献立はもっと考えられます。いい形で変わっていきます」と話してくれました。「おすすめしているのは、行事食から取り入れること。続けやすくなりますよ。」

取り入れる際の、保護者の声はどうだったのでしょうか。「驚くほど何もありませんでした。なぜなら、安心安全の給食であることを宣言したからです。うちの子にアレルギー対応は関係ないと思っている方には、初発事故の存在をお知らせしました。いつ初発事故が起こるか分かりませんし、もしかすると、保育園かもしれません。リスクを少しでも軽減するという観点で給食を考えています、と。試食もしていただき、イメージとは違うおいしさにみなさん驚かれました。」

『おおわだ保育園のアレルギー除去「なかよし給食」~身近な食材で作れる安心レシピ集~』(小学館/1,200円+税)

小麦・卵・乳製品を使わない32のレシピが紹介されています。

「人間は100%ミスしないといえない。ヒューマンエラーはゼロにできません。危険なものを最初から取り除いておくのはみんながハッピーになり、調理をする、配膳をする職員にも負担をかけません。」

「お鍋の日」の効果は想像以上ライブ体験の連続で、幸せに!

今年度から毎月、5歳児が買い物、調理、食べるまでを行う「お鍋の日」。4月鯛しゃぶ、5月黒豚しゃぶしゃぶ、6月鳥の水炊き、7月ハモなべ…。このラインナップを見ただけで、活動内容へのこだわりが感じられます。

「孤食で育った大人が、人と一緒の鍋は苦手だと言う。これはなんとかしたいと思いました。鍋に対する苦手意識は子どものうちから払拭しておくのもありだし、人間関係を構築するのに絶好の教材です。季節の変化、旬を取り入れやすいお鍋は、まさにライブ。進行形でプロセスを見ることができ、火の熱さを感じ、変化を観察するという観点からもいい。相手のことを考え、マナーも取り入れられます」と馬場耕一郎先生。

どんな鍋にするかは職員の給食会議で決めます。当日は、子どもたちが野菜を地域の店まで買いに行き、袋詰めをして持ち帰り、いよいよ鍋作りです。

「食材を切って盛り付けるときに、パズルのように並べたり、個性が出ますね。出汁の昆布がふにゃふにゃ大きくなったと発見したり。本当に面白い」と馬場睦代先生。好奇心いっぱいに、目をキラキラさせながら調理に参加した子どもたちは、時間をかけて残さず食べきるそうです。

「同じ釜の飯を食べて、仲良くなれる。ある子が食べながら、『ああ幸せ』と言ってくれました。幸せな保育について議論されていますが、子どもが幸せと感じることを提供し、幸せと感じる社会を作っていくのが、大人の役割ではないでしょうか。」

子どもの集中が2時間も続く活動です。

最後に、野菜のヘタや魚のアラは、畑に入れて肥料にします。第3次食育推進基本計画(農林水産省)の“食の循環”も、お鍋の活動を通して子どもたちはしっかりと身に付けています。「畑を掘り起こしたとき、むっちゃ臭いと(笑)。発酵臭を感じ、同時にいい匂いのすばらしさも感じたのでは。」

学びが多く総合的。体験が全部、興味関心にそのままつながっていくのを感じます。家でも鍋を喜んで、子どもが準備を手伝ってくれたら、保護者もこんなうれしいことはないですね。

和食の中心はお米です

毎週火曜日は「おいしいお米の日」。先週山形出張の際、「つや姫」と「雪若丸」という新しい品種を購入しました。和食が重要視されている中で、基本のお米。三重や福井のコシヒカリを基本に、子どもたちは味の違いを経験しています。お米への意識は意外と低く、一番コストカットできますが、ごまかせることができるものは、絶対ごまかしてはいけません。馬鹿正直にちゃんとしたものを出す。お米の違いを感じられる感覚を養うために、炊きたてあつあつを提供したいと。5歳児は自分たちでお米を研いでいます。(馬場耕一郎先生)

TOPICS

わんぱくランチ 
セミナーレポート
「アレルギー対応で大事なのは、意識レベルをあげること」

今年8月に開催したアドム主催の給食セミナー。今年のテーマは、「保育所における食物アレルギー対応」で、2部構成で行いました。2部の講師・理事長の馬場耕一郎先生は、平成 30 年4月に施行された「保育所保育指針」の食に関する部分に焦点を当て、また現場での誤食事故を防ぐ取り組みについてお話しくださいました。その一部を紹介します。
先生方が学校で習ってきたことが今の時代は変わっています。ミスを防ぐ、事故を防ぐために、アレルギー対応で一番大事なのは、「意識レベルをあげること」だと考えています。
私は平成25~29年、厚生労働省に在籍し、「保育所保育指針」の改定、保育士等キャリアアップ研修制度の設計を手がけました。まず、子どもたちは貴重な存在であるという厚生労働省のデータを示します。全国のこども園の数と、子どもたちの利用状況です(図1)。保育所202万人、幼稚園108万人、認定こども園には約81万人、計約400万人が何らかの施設に在籍しています。先生方は、約400万人の子どもの命を、未来を預かっています。

(図1)

保育の現場で話題となっているのが「保育の質」です。OECD(経済開発協力機構)では、“子どもたちが心身ともに満たされ、豊かに生きていくことを支える環境や経験”と定義しています。大変重要です。保育の質を考えたとき、保育室、園庭、保育内容を考えがちですが、子どもたちが心身ともに満たされることを前提としています。どうしてでしょうか。
食物アレルギーの子どもが「僕も一緒のものが食べたい」「何でいつも違う席に座っているのかな」と感じているとき、心身ともに満たされているでしょうか。単に生きているのではなく、“豊かに”とは、季節を感じ、旬を感じ、昨日とは違う今日を生きていることを示しているのではないでしょうか。
いくら先生方が保育内容を工夫しても、子どもたちが心身ともに満たされておらず、豊かに生きていくことを支える環境や経験がなければ、保育の質は高めることができません。
先生方の労働環境も保育の質に直結します。働きづめで疲れて、しんどいな。そんなときは正しい判断ができるでしょうか。マニュアルをきっちり守ることができるでしょうか。いつも事故がないし、まあいいかと、妥協してしまう環境を生むかもしれません。先生自身が心身ともに健康な状態を維持するための労働環境が、保育の質を向上するために大変重要と考えています。
保育所保育指針では、保育の方法に関して、“生活や遊びを通して”という文言が入っております。教材を使って何か教えるという手法を用いるわけではありません。生活という観点から考えますと、「食・食べる」ことは、非常に大切な方法の一つであると捉えています。
養護に関する基本的な事項では、生命の保持、情緒の安定の中で、“一人一人の子どもが”と、すべての項目で書かれております。非常に大事なところです。今回の改定では、“くつろいで共に過ごし”という文言が新しく入りました。何をするにも早く、早くと急かされて生活している子どもたち。くつろぐ場が家庭では厳しくなっている中、食事の場面でも「くつろいで」という部分が担保されているか、今一度ご確認ください。
今回の改定で、「育みたい資質・能力」が入りました(図2)。私がおすすめしているのは、保育日誌で証明すること。普段のお散歩を、「Aさんは暑いなと感じていました。Bさんは日陰に入ると涼しいと気づいていました。4月は長く散歩できなかった子どもたちが、しっかりと歩けるようになりました」など、感じた、気づいた、できるようになったといった言葉を使って書くと、育みたい能力が日々の保育の中で向上していることの表れになるかと思います。

(図2)

第2章の「3歳以上の保育に関する狙いおよび内容」では、保育士等や友達と食べることを楽しみ、食べることへの興味や関心を持つということが書かれています。健康領域に書かれているということは、日々の生活、保育の中で展開してほしいという願いが込められています。「疾病等への対応」では、アレルギー疾患について、「保護者、医師の診断に基づいて、適切な対応を行うこと」という文言が記載されています。何でこんなことをしないといけないの?という先生方は、保育所保育指針の「疾病等への対応」を改めてお読みください。
アレルギー疾患にも触れられており、「アナフィラキシーにおいては、誤食が発生すると生命が危険にさらされる。適切な対応を行うことが重要」。生活環境の整備では、「ダニ、ホコリの管理」。アレルギー疾患の観点からも生活環境の整備の意識を高めていただきたい、ということが書かれております。他にも、「適切な休息、食事、睡眠のリズムが芽生えるようにする」「さまざまな食品、調理形態に慣れ、ゆったりとした雰囲気の中で、食事や間食を楽しむようにする」など。先生たちの日頃の場面を思い出し、確認してください。
 第3次食育基本計画では、5つの重点課題の記載があります(図3)。保育所保育指針、第3次食育基本計画に書かれていることを踏まえた対応を行わなくてはならないということです。

(図3)

食育はイベントではなく、毎日行わなければ食育じゃありません。「生活を通して」という文言が保育所保育指針の中にあるのですから。月1回が生活じゃないです。子どもたちがいかに参加していくか、ということを毎日していただければと思います。

馬場耕一郎 先生

社会福祉法人友愛福祉会おおわだ保育園 園長、同理事長を歴任し、厚生労働省子ども家庭局保育課保育指導専門官として「保育所保育指針」(厚生労働省、2017年3月)の改定に携わる。現在、社会福祉法人友愛福祉会おおわだ保育園 理事長を務める。

RECIPE

なかよしシチュー

材料(以上児1人分)

  • 鶏もも肉一口大30.0g
  • 2.0g
  • じゃがいも一口大30.0g
  • たまねぎくし切り20.0g
  • にんじん3mm銀杏切り10.0g
  • ブロッコリー小房10.0g
  • 米粉(上新粉)6.0g
  • 昆布だし(水)70.0g
  • 鶏ガラスープ1.0g
  • 豆乳15.0g
  • 砂糖0.2g
  • 0.1g
  • 豆乳ホイップ5.0g

作り方

  1. 鍋で油を熱し、鶏肉を炒める。肉に火が通ったら、たまねぎも炒める
  2. たまねぎが炒まったら、1に米粉を振り入れて混ぜ、全体に米粉が混ざったら昆布だし(水)を加えて焦げないように、混ぜながら煮る。
  3. 別鍋でじゃがいもとにんじんを茹でる。
  4. ②に③の野菜を加えて鶏がらスープと砂糖を加える。
  5. 豆乳を加えてよく混ぜながらしばらく煮る。塩で味を調え、最後に投入ホイップを加える。

※大量調理の場合はにんじんとじゃがいもはスチコンで蒸すと時短と作業の軽減になります。

なかよしハンバーグ

材料(以上児1人分)

  • 牛ひき肉20.0g
  • 豚ひき肉20.0g
  • 0.3g
  • たまねぎみじん切り 20.0g
  • れんこんすりおろし 30.0g
  • れんこん飾り用 適宜
  • <たれ★>
  • ケチャップ★3.0g
  • とんかつソース★1.0g

作り方

  1. 飾り用れんこんを薄切りにし、残りをすりおろす(フードプロセッサーでペースト状にする)。
  2. たまねぎをみじん切りにして、スチコンで蒸す。
  3. 肉に塩を加えてよく練り混ぜる。
  4. ③に①、②を加えてよく混ぜる(やわらかい場合は、片栗粉1~2g程度を加えて調整する)。
  5. ④をバットに入れて飾り用れんこんをのせ、オーブンで焼く。少し冷めてから四角に切る。

※肉に塩を加えてこねると、肉同士が結着して焼くことはできますが、食感がかたくなります。れんこんのすりおろしを加えると食感が軽くやわらかくなります。

NOTE編集後記

おおわだ保育園の「炊きだし訓練」では、子どもたちのキラキラした目と先生方の楽しそうな様子、それを温かく見守る理事長先生と園長先生の姿が印象的でした。

生活の中心に食があり、子どもたちにとって楽しい活動が、災害時の訓練になっている。まさに、子どもが生活と遊びの中で、意欲をもって食に関わる体験を積み重ねながら、食を楽しみ合う姿を見せていただきました。

理事長先生は、「食べることから学ぶことは本当に多いんですよ」と言います。

生きる力につながる食育。その根底には、小麦・卵・乳製品を使わない「なかよし給食」で、みんなが一緒に食べることができる安全な食環境がありました。
おおわだ保育園の食育から、毎日の生活の中で、食を楽しむことの大切さと共に、課題に合わせて給食献立を工夫することの重要性を改めて学ぶことができました。今回は、ありがとうございました。

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