自 分自身も楽しみながら
食べることの大切さ
楽しさを伝えています

Vol.16 瀬戸内市立 邑久保育園

USER NAME邑久保育園

自 分自身も楽しみながら、食べることの大切さ、楽しさを伝えています

今回訪れたのは、岡山市に隣接する岡山県瀬戸内市立「邑久保育園」。都市に近く、子育てがしやすいまちとして転入者が増えている地域に位置します。給食に係る業務を担当する佐藤いずみさんは、栄養士として創意工夫を重ね、さらに保育の視点も取り入れながら、「子どもたちに食べることの大切さや楽しさを伝える」ために、日々充実した食育活動を展開します。その原動力は「自らも楽しむこと!」。周囲とうまく連動して活動を進めるために、できることを聞きました。(わんぱく子どもの食事研究所所長 佐橋ゆかり)

訪問したのは…

施設名

瀬戸内市立 邑久(おく)保育園

所在地

 岡山県瀬戸内市邑久町尾張 1159-1

  瀬戸内の千町平野に囲まれた市立保育園「邑久保育園」。平成12年4月1日に現在の場所に新築移転し、現在は0歳児から5歳児までの子ども137人が生活しています。明るくのびのびとした環境の中で、自然とふれあいながら、生き生きとたくましく心豊かな子どもたちを大切に育てます。 行事も充実し、毎月1回の誕生日会では行事食を提供。運動会や発表会、夏祭り、遠足、おもちつき大会等、年間を通して親子のふれあいを深めています。
 また、地域子育て支援センター事業、一時保育、延長保育(午前7時30分~午後7時)、乳児保育(6ヶ月)の特別保育事業を実施。地域の子育て支援の拠点にもなっています

《保育目標》

  • 元気で明るい子ども
  • 思いやりのある心豊かな子ども
  • 根気よくがんばる子ども
  • 自分で考える子ども
  • 自律心のある子ども

開放的な空間が広がっています

明るい雰囲気の給食室

みずみずしく大きく成長した野菜の前で

保育の知識を身につけたら
保育園栄養士として世界が広がった!

 栄養士として31年、瀬戸内市の各保育園や市役所で働いてきた佐藤いずみさん。現在勤務する「邑久保育園」では、これまでの知識や経験を生かしながら、園の実情に合った取り組みを立案し、進めています。園長、保育士、保護者と丁寧にコミュニケーションをとり、スムーズに進める姿は、一目置かれる存在となっています。
 そんな佐藤さんも、若い頃は試行錯誤の連続だったそう。5年前に保育士資格を取得したことで、栄養士の仕事と子どもの発達を結びつけて、深く考えられるようになったと話します。
 「保育園の栄養士は、保育の一環として、食事の提供のほか、食育を行います。ですが、以前の私は“子どもが楽しいかどうか”が最優先で、主にクッキングをしていました。そんな私の活動内容に対して、当時の園長が『どんな意味があるのか』『子どもの育ちを見る視点があるか』『子どもの何を育てたいのか』と、指摘してくれました。栄養士をしながら保育士の資格取得をされた方が近くにいたのもあり、私も挑戦しよう!と決めました。ちょうど子育てが落ち着いた頃です。子どもの発達について専門的な知識を得て、世界が広がりましたね。自分自身がこの仕事を楽しむ余裕も生まれています」

「おいしいね」と言ってもらうためには
子どもたちを見て、声を聞くことから!

  「子どもたちは正直なので、おいしいものでないと食べてくれません」と佐藤さん。そのために行っているのは、子どもたちが実際に食べる様子を見て、喫食状況を確認し、声を聞くこと。全ての活動の原点で、コロナ前は子どもたちと席を並べ、一緒に給食を食べていました。保育士と情報共有し、相談する場としても大事にしていて、何より給食作りのモチベーションが上がるそうです。
 「最近、子どもたちを見ていて気になるのは、体幹がしっかりしていない子が増え、食べる量も減っているのではないかということ。そこで、離乳食の時期は足裏をつけて食べるように促し、口の動きや発達に応じた食事を意識して、かじり取れるものを必ず一品は出しています。3歳では、おかずとご飯を順番に食べること、4、5歳では、姿勢良く食べることの大切さも伝えています。これからも子ども一人ひとりに目を向けて、活動を展開していきたいですね」

給食を作る人、食べさせる人の連携で
子どもはより食に集中できます

 園では唯一の栄養士という佐藤いずみさん。「子どもたちに、将来の健康な体を作る食事を体得してほしいという思いを込めて活動しています。一人栄養士は寂しい面もありますが、活動を通して、みんなとつながれます。孤独に感じることはありませんよ」。周囲と連携した佐藤さんの活動はすぐに取り入れられるものもあります。皆さんの園でも取り入れてみませんか。」

アイデア1
配膳室にホワイトボードを設置 保育士に「献立の意図」を伝えます

「保育士にも給食に注目してほしい。献立の意図を理解して、子どもたちに伝えてほしい」と考えた佐藤さん。そこで、配膳室の入り口に小さなホワイトボードを設置し、「今日の献立の意図」を一口メモ程度に書き、掲示することにしました。給食を取りに来た保育士がそれを読んで、給食中に子どもたちに伝えるという仕組みです。コツは、さっと読める文字量を丁寧な字で書くこと。
「以前の職場の福田保育園で、保護者向けにやっていたことをアレンジしました。その時は、ホワイトボードがわざわざ行かないといけない場所にあり、どうやったらそこまで足を運んでもらえるのかを考え、園長のアイデアで“いいね!”磁石を貼っておきました。見た人が磁石を移動させられるという楽しみの要素を加えたのです。このような方法は、給食を作る調理員の気持ちも伝わるし、栄養士の存在感も出せますね!」

1ヶ月分の原稿を作っておき、毎日書き換えます。慣れると1ヶ月分の原稿は30分ほどで書けるそうです。
例)12/21(金)
はんぺんの中にハムとチーズが入っています。はんぺんが主役になるボリュームのある一品です。みそ汁は具だくさんで温まる一杯です。

アイデア2
ワクワクできて気づきが多い活動 月1回「食育レンジャー」に変身!

食育活動の中で、子どもたちが特に楽しみにしているのが「食育レンジャー」です。佐藤さんの発案で始まり、前の職場から続く取り組みで、赤・緑・黄の「食べるんじゃー」が登場すると子どもたちは大喜び! 給食の食材と働きをわかりやすく伝えるための食育劇で、栄養士・調理員と結成し、月1回の頻度で活動しています。 「『3色わけボード』を使いながら、それぞれの色の食べ物を伝え、3色の食べ物をバランス良く食べる意識づけの場にしています。活動を通して、子どもたちが理解している姿や、身についているなと感じる場面に遭遇し、感動することも度々ありますね」。また、保護者にも、給食だよりなどを通して、3色そろった食事をすることの大切さを伝えています。子どもたちが“給食の先生”の顔を覚える機会にもなっています。

手作りの「3色わけボード」で、バランスの良い食べ方に対する理解が進みやすくなります

アイデア3
野菜の摂取量や地域食材も紹介!食への理解が深まる「展示食ケース」

園舎の入り口に設けているのは、木製の「展示食ケース」です。給食内容を保護者に知ってもらうため、食事についての理解を深めてもらうための棚を用意し、実際の給食を展示しています。あわせて、子どもたちに野菜を積極的に食べてもらうため、「1日で食べたい野菜の量と、給食で食べた量」も表示したのが、佐藤さんのこだわりです。また、瀬戸内市は学校給食地産地消100%を目指し、「瀬戸内市食のしあわせプロジェクト」を実施。「子どもたちに自分たちが作った野菜を食べてもらいたい」という熱い思いを持った農家さんが中心となり、学校給食へ地場産物を提供する取り組みが行われています。この展示食ケースは、「農家の◯◯さんが作ったキャベツ」など、地場産物を具体的に紹介する場にもなっています。「今日は何かな?」と、楽しみにする保護者も多く、自然と食に対する注目度が高まっています。

アイデア4
自分たちで作った畑で野菜を育てて食べる「栽培保育」

園庭には、自分たちで作った畑が点在しています。その畑で収穫された野菜は、給食室で調理して、提供しています。「苦手な野菜でも、自分たちで収穫することによって、避けずに食べることに挑戦する良い機会になりますね」と佐藤さん。季節に合わせた野菜を複数栽培し、コロナ前は、食育活動のクッキングに使っていたそうです。

保護者に収穫した野菜を知ってもらうため、展示・掲示しています。

例)ひまわり組さんが育てたたまねぎを、今日、みんなで初収穫しました! 給食の〇〇に使いました。

アイデア5
給食だよりの裏面は「給食レシピ」保護者が持ち帰るレシピも用意

 保護者アンケートで要望が多いのが、「レシピを教えてほしい」という声。そこで毎月の給食だよりの裏面におすすめメニューを載せています。さらに、保護者が気になるメニューをすぐ作れるように、自由に持ち帰ることができるレシピカードも設置しました。保育園では朝ご飯を食べる子ども100%を目指し、さらに3色そろったバランスの良い朝ご飯を食べる家庭の割合を増やすために、毎月2回、「簡単にできる朝ごはんレシピ」の配布もしています。

栄養士さんにインタビュー
共に励む先生たちに伝えたいこと

 人生の中で最も発育・発達の著しい時期において、「食べることは生きること」の基礎を培う重要な保育園給食。栄養士として日々奮闘する佐藤さんから、同じ環境で励む先生たちに向けてメッセージをもらいました。

佐橋

配膳室での「献立の意図」の掲示など、食べさせる側が実践できる教材を作り、保護者にも伝わっていく流れを作る取り組みはすばらしいですね。「今日はこの献立だよ」と子どもに意図を伝えて、子どもが食べ物に注目するのが食育で、小さな子にとっては食べていくのが一番の食育なんだと、佐藤先生の取り組みを通して、改めて感じました。

佐藤

ありがとうございます。私は栄養士になって31年ですが、最初の就職先が学校給食だったのが良かったと思っています。実際に現場に出て、習い、その後に市役所に行き、保育園へ。保育園給食はとてもやりがいがあり、極めたいと思いました。保育士資格をとったことで、食べることと育ちと、両輪で進めていけるのが私の強みで、いろんなことができています。例えば、昔は離乳食を作って食べさすだけだったのが、今なら「体ができてから食べさせましょう」と言えます。

佐橋

おいしいものを食べてもらうためにも、いろいろな取り組みをされていますね。

佐藤

給食は、本物の味を伝えるために、手作りが基本です。旬の新鮮な野菜をはじめとして、食材の幅を広げながら、子どもたちがさまざまな食感を味わえるよう意識しています。おいしい!と言ってもらえると、何より頑張る力になりますね。給食作りは楽しいですし、子どもたちの体を作っているんだという手応えを感じています。衛生管理やノロウイルス対策、異物混入、アレルギー対応など大変さもありますが、課題解決に向けて、調理員や保育士との情報共有を密にしながら、丁寧に進めています。

佐橋

同じ環境で励む先生たちにメッセージをいただけますか。

佐藤

私が心がけているのは「仕事を楽しむ」ことです。仕事をする中で、さまざまな困難もありますが、自分が考えて調理した給食を、子どもたちがおいしい!と食べてくれる時、背が伸びて体がひとまわり大きくなって成長を感じられる時など、自分自身がワクワク・ドキドキしながら仕事をするの大切だと学びました。子どもたちと接しながら、仕事をする喜びを感じ、そして楽しんで仕事をしてもらいたいなと思います。

佐橋

今後やってみたいことはありますか。

佐藤

今、家庭によって「食べること」に対する考え方の差が、かなりあるように思います。以前のような同じ指導がしにくく、保護者のニーズを探る必要性を感じています。子どもたちの心と体が健やかに育つように、また食べることが楽しい!ワクワク・ドキドキ感を持って食べることができる子どもを目指して一人ひとりに寄り添った取り組みをしていかなければと考えています。

佐橋

将来まで続く健康な基礎作りを軸に、周囲を巻き込んで幅広い活動を行う佐藤さんの取り組みに、今後も注目させてください。

RECIPE

給食だよりにも名前を伏せて…
当日までヒミツ! ワクワクできる「行事食」

なかよし親子がカワイイ 
「かたつむりらんち」
中華風炊き込みごはん

材料(以上児1人分)

  • 55g
  • 豚肉(こま切れ) 15g
  • にんじん5g
  • たまねぎ15g
  • 干ししいたけ0.5g
  • 1.4g
  • ごま油1g
  • 食塩0.1g
  • 洋風だしの素 0.5g
  • 1g
  • 砂糖0.5g
  • しょうゆ0.15g

作り方

  1. にんじん、たまねぎはみじん切り、干ししいたけは、戻してみじん切りにする。
  2. 米は洗って、普通の水加減で炊く。
  3. 油を熱し、豚肉、1を炒めて火が通ったら、調味料で味をつける。
  4. 炊きあがったご飯に、3を混ぜ合わせる。

ポイント

  • 子どもたちのために一生懸命給食を作る調理員の仕事を理解してもらうため、献立をイラストにし、調理のポイントや感想などを加えて、紹介しています。
  • その月にちなんだ内容で、子どもたちが目で見て心がワクワクし、食べて「おいしい」と自然と笑顔になれる、という点を大事にしています。
  • 梅雨の6月といえば、かたつむり! 子どもたちの好きなメニューでそろえ、親子のかたつむりにしてみたところ、ボリューム満点になりました。子どもたちからは、「かたつむり~!」「どこから食べようかなぁ?」といった声が上がっていました。ト

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