「園舎の中心は見える”台所”。
つながりを大切に、おいしさを発信!」

Vol.11 ひよこ保育園

USER NAMEひよこ保育園

「恵まれた自然を体いっぱいに感じて!人との関わりで、子どもの心と体が育てたい」

保護者と共に理想の形を追い求めて完成した現在の園舎。1991年に建設委員会が発足し、保護者延べ100人と、全国17園を見学したそうです。「子どもの成長と発達」「保育士の働きやすい職場環境」「親や地域に開かれた保育園づくり」をスローガンに、1997年に完成しました。

訪問したのは…

施設名

社会福祉法人 ひよこ会 「ひよこ保育園」

所在地

三重県四日市市東日野町字城山1611-16

紹介

ひよこ保育園は1968 年(昭和43 年)、四日市小古曽駅近くの農家の一室で「ひよこ乳児共同保育所」としてスタートしました。「働きながら子どもを産み育てたい」という親の願いと、「子どもを健やかに、豊かに育てていきたい」という地域のサポートによる21年間を経て、1989年に社会福祉法人 ひよこ会が認可され、「ひよこ保育園」と改名。子育てを通して、親と職員も共に育ち合い、一緒に保育を創り上げていきたいと考え、「よりよい形、よりよい関係」を目指し、現在に至ります。1997年から一時保育事業を実施し、定員を90人に。2001年から子育て支援事業、2004年から特定保育事業に取り組みます。

主体的に助け合い、信頼が生まれつながりがおいしさに直結します

ひよこ保育園の始まりは、52年前にさかのぼります。
保護者や地域と目指す理想が詰まった園は、徐々に輪が広がり、グループの園が2園増えました。
園舎を開放した子育て支援センターや、一時保育事業にも取り組み、地域でなくてはならない存在になっています。
力を入れる食育にも、栄養士・調理の先生たちの子どもへのあたたかな思いがありました。

保護者の交流もさかん会話を通して、よりおいしく

元気な子どもたちの笑顔であふれる、地域で人気のひよこ保育園。「むしゃむしゃの森」と名付けられた、自然あふれる小高い丘にあります。春はタケノコが顔を出し、夏にはセミやカマキリ、バッタがあちこちに。秋になると散歩中にアケビやクリを発見!冬はナンテンやヤシの実でクリスマスリースを作り、冬イチゴも見つかるという、子どもたちにこの上ない環境です。
「人との関わり、つながりの中で育ってきた園です。食に関してもつながりを大事にしていて、田植えや畑づくり、イモ掘りに餅つきなど、行事はたくさん行います。保護者のお父さんたちは、餅つきに来てくれるなど、いろいろな形で手伝ってくれますし、お父さんたちの飲み会があるんですよ。在園生、OB 会のキャンプもあり、私も誘われています(笑)。卒園した子どもたちは、ひよこで食べるカレーの味が忘れられないと言ってくれます。保育参加は、その日のメニューを確認して、楽しみにして来る方も。人はしゃべりながら食べるというのが大事だなと日々感じています」と、園長の味岡珠美先生は話します。
理事長も事務長も園長も、お子さんがみな、ひよこ保育園を卒園しているのだとか。家族的なあたたかい雰囲気で、居心地のよさも園の魅力です。
「四日市市も待機児童の問題があり、思い通りに入園できない方もいます。また、遠くから通っている核家族の方も多く、夫婦で子育てをするので、必然的にお父さんの出番が多くなります。保護者同士で励まし合い、お友達づくりをしてもらえるのは、本当にうれしいですね」

季節の行事は保護者自ら、準備から積極的に参加します。

「くう・ねる・あそぶ」を大切に

親同士、親と職員のつながりで、「くう・ねる・あそぶ」という、子どもの成長の三大栄養素をたっぷり蓄えることのできる当たり前の保育が、力強く形になっています。(味岡園長先生)

生活の中心は「食」だから自然と「台所」が中心になりました

「ひよこ園では、生活の中心は“食” という考えから、園舎を新設するとき、調理場が真ん中に位置するよう設計しました。調理場を“台所” と呼び、子どもの視点に合わせたカウンター越しに、調理の様子をいつでも見ることができるのです。また、台所で給食を作る職員も、子どもたちをいつでも感じられる環境です」と味岡園長先生。
食育基本法ができ、食と保育をつなぐ考えは、今さかんに言われています。新しくできる保育園では、料理場をよい場所に配置し、全面ガラス張りにするところも増えています。時代の先を行き、22年前からその考えを取り入れ、具現化していたのには驚きです。
台所のすぐ前が食堂で、囲炉裏(いろり)があり、自然と人が集まる場所にもなっています。「ひよこ園の台所は、ただ給食を提供するところではなく、人にとって食べることの大切さを考えられる場所。給食は食材を育てる人、収穫する人、配達してくれる人、調理する人がいるから食べられる。ただ食べるだけではなく、人のつながりを感じるから、心も満足できておいしいんだということを、園の中心から発信しています」

旬の素材で、なるべく薄味手間と愛情も、給食の役割です

もう一つ大事にしているのが、和食の献立。日本人が昔から食べてきた、季節を意識できる食材を積極的に取り入れています。栄養士の小嵜美律代さんは、「外食や総菜で便利になった食生活ですが、季節感が失われた貧しい食事になっているように感じます。園ではなるべく薄味にして、添加物を使いません。冷凍食品や加工食品も使わず、魚も生で新鮮なものを取り入れています」と言います。
この日の献立には、地元の漁港で水揚げされたばかりの生ダコが、から揚げに。お代わりをする子たちが続出し、あっという間になくなってしまいました。「昨日、生きている状態のタコを子どもたちに見せました。ぬるっとした触感や吸盤が吸い付くことに、興味津々です。さまざまな体験を積み重ね、食を楽しんでほしい。つながりを感じられる、おいしい環境をつくることを意識していますね」。小嵜さんは給食作りに手間も愛情もおしみません。しっかりした歯ごたえのタコには、「子どもたちの咀嚼力も鍛えられますね」と、子どもへのよい影響も考えています。
また、洋食も中華もすべて和だしがベース。「いいもの、本物の味を伝えたいし、アレルギーのこともあります。だから、カレーやシチュー、八宝菜も和だし。おいしいと評判です」

TOPICS

みんなと一緒においしい経験を重ねるために!
春夏秋冬、日常から行事まで、多彩な食育

「おいしさは人間関係を含めて、食べておいしいと感じること」。ひよこ保育園では。普段の生活から行事まで、おいしい思い出をつくる機会をたくさん用意しています。その一部を紹介します。

恒例のうどん作り。自分たちで足踏みをして、生地を伸ばします。
出来上がったうどんは最高のおいしさ!

タケノコの皮をむくお手伝い。きれいなチラシずしが完成しました。

「プールびらき」の日は手巻きパーティーをして、かっぱ巻きを食べます。

みんな大好きな、そうめん流しも恒例行事です。野菜もころころ転がって。

収穫の秋。おいしい物発見!!早速くりごはんにしました。1歳児さんは手形のいがぐりくんを台所に持ってきてくれました。

台所で焼いたケーキを年長の子どもたちが飾り付け。ひとりひとりの個性があふれ出ます。出来上がったケーキは、各クラスにプレゼント。みんなで味わう手作りケーキに子どもたちのテンションもアップです。

栄養士さんにインタビュー

栄養士として、設計に関わった台所からつながりを育み、記憶に残るおいしさへ

小嵜美律代さんは、鹿児島県の保育園で働いた後、結婚を機に三重県へ。1993年からひよこ保育園で働き始め、2007年にこっこ保育園(ひよこ会第2園) 開園を機に異動、2017年6月に再びひよこ保育園に。「わんぱくランチ」を立ち上げる際には貴重なアドバイスをいただき、アドムとは長いおつき合いになります。

先生が働く台所の空間は子どもにとって、とても魅力ですね。

小嵜

私も設計から関わりました。食は生活の真ん中だからと、園舎の真ん中に作ってくださいとお願いしたのです。
1歳児もカウンター越しに台所が見えるように。私たちは、台所の先生と呼ばれますね。

台所の先生は、子どもたちにとって身近な存在ですね。先生が、お仕事される中で大切にしていることは何ですか?

小嵜

「つながること」です。おいしいという感情は、関係性から生まれることがたくさんあります。
関係づりは子どもはもちろん、職員、保護者ともです。
例えば、関わった子どものところへ給食中に行くと、嫌いなものでも頑張って食べてみようとしてくれます。

台所の横には、食材、調味料に関して、給食だより、行事の報告など、たくさんの掲示物が貼ってありますね。

小嵜

保護者との関わりが生まれるように、私たちの思いを見える形にしています。園総会では、「給食で大事にしていること」を伝える場があります。毎年テーマを決めますが、「つながろう」はずっと伝え続けています。

みんなのお皿は空っぽ。おいしいのが良くわかります。

栄養士 小嵜美律代さんと

保護者向けの月1回のおたより「はらぺこだより」は、子どもの様子や気持ちが手に取るようにわかり、すてきです。

小嵜

保護者の反応を楽しみにしながら書いています。
まだまだ、食べることへの関心を高めるために、「先生メニュー」、「子どもメニュー」の日があります。
2、3月は「親子で考えるメニュー」だけで構成します。今まで保育園で食べたメニューを親子で振り返ってほしいと、1年分の献立表をコピーして渡し、親子で考えた1日分のメニューを、理由を添えて戻してもらいます。
給食では「私の考えたメニューだ!」と子どもたちが盛り上がります。
保護者には、エピソードや、子どもに向けてのメッセージ入りの献立表が配り、とても喜ばれています。

調理室の外へ発信!
思いを伝える方法はたくさんある

現場を回ると栄養士さんから、「調理室から出にくい」と、悩みを聞くことがあります。
おたよりは、料理そのものや、料理を通して子どもの成長を願う思いを発信でき、とても参考になります。
また、食べることに近い活動をした後は、しっかり言葉にして、保護者や保育士に、意味を伝えていけたらいいですね。

小嵜

でも、まだまだ。そんな中でも、梅干しと味噌は子どもに伝えたいと、年長さんと造りました。
恒例行事が多いので、保育士さんと連携し、進めています。子どもは自分で作ったものはよく食べますよ。

実際に食べる食育が多いのが、ひよこ保育園の特徴ですね。

小嵜

年長さんには、朝30分ほど台所でお手伝いをしてもらいます。最初は見学と皮むきから。
「今日は何切りだった?」とか、5歳児が千切り、乱切り、さいの目切りという会話をするのが好きですね。

「食を営む力」につながる五感を使った食育体験ですね。

小嵜

年長さんにはお米を研いでもらうのですが、計量することで、生活の中で算数ができます。
台所に入る前日には、子どもに準備物と「メニューを見て、何ができるか考えてきて」と伝えます。
それが先を見通す視野の広さや、自己肯定感につながると感じています。

台所の雰囲気がよく、みなさん楽しく働いている姿が印象的でした。

小嵜

台所の中の人間関係も大事にしないとおいしさにつながりません。
私はなるべく薄味にしたいのですが、人それぞれ好む味の傾向があります。そこを、関係性があることで、私が提案する味をおいしいと言ってくれることがあります。同じ味でも、私たちがおいしいと思って作る味は、子どもにしっかり伝わります。

よい関係性で、ひよこ保育園の味が作れているということですね。
一貫性のある味は、子どもたちにとって「安心」につながると思います。

小嵜

保護者と行っている「子育て部」では、夜に親子クッキングをしています。
市販のカレールウを使わなくても、米粉でおいしいと伝えたり。
そこで保護者の一人が、「先生たちめっちゃ楽しそう。ここで働きたい」と言ってくれた言葉も励みになりましたね。

人間関係やこまかい作業、スピード感…、山のようなむつかしさがある中、人のつながりで、おいしいものを作る。
それが保護者にも伝わり、調理室は全く閉ざされていませんね。

小嵜

保育士さんからも声をかけられやすいように心がけています。保育士さんとの信頼関係はとても大切です。

先生のモチベーションはなんでしょうか。

小嵜

かわいい子どもの成長が見られるし、循環かな。保護者もかわいい、いとおしい。
どんな保護者も子育て頑張っているなあと思いますね。

保育園給食を作る仕事は、子どもたちの未来につながる仕事ですね。
わんぱくランチは、現場のニーズに合わせて、改善を重ねています。業務の効率化ではなく、献立を作るのが楽しくなるソフトウエアであることが最大の願いです。先生のお話で、モチベーションが上がりました。本日は、ありがとうございました。

愛情いっぱいの、はらぺこだより

手書きのおたよりは、台所の先生たちの思いがつづられ、写真がちりばめられていてます。
読みやすく、伝わりやすいことを意識し、仕事の隙間時間を利用して、コツコツ仕上げます。

RECIPE

おたからだんご

材料(以上児1人分)

  • おから15.0g
  • ジャガイモ18.0g
  • タマネギ10.0g
  • 粉類(米粉、 小麦粉など)5.0g
  • 0.2g
  • 適宜
  • 3.0g
  • 季節の野菜適宜

作り方

  1. タマネギはみじん切りにして炒め、冷ましておく。
  2. ジャガイモの皮をむき、フードプロセッサーで細かめのみじん切りにする。*すりおろしてもOK
  3. ②のジャガイモ、おから、粉類、①のタマネギを混ぜる。団子ができるくらいに水分の調整をして、塩を入れる。
  4. 団子にして揚げるか、スチコンで揚げ焼きにする。
  5. 季節の野菜で、炒め野菜をして、ケチャップ味、甘酢あんなどでアレンジする。

米粉のスコーン

材料(以上児1人分)

  • 米粉26.0g
  • おから12.0g
  • きな粉2.0g
  • ベーキングパウダー1.5g
  • 粗糖5.0g
  • 0.2g
  • 3.2g
  • 豆乳18.0g

※分量は好みで調整を。米粉を減らして全粗粉やライ麦粉、そば粉をブレンドしたり、油の種類を変えたり、砂糖をハチミツにしても

作り方

  1. 米粉から塩までをボウルに入れて、泡だて器で混ぜ合わせる。
  2. ①に油を入れたら、泡だて器でざっと混ぜ合わせた後、粉全体に油が混ざるように両手ですり合わせる。
  3. 豆乳を加減しながら加え、粉が残らない程度ににまとまったら、完全にはまとめず、ポロポロにした生地を軽くくっつける程度に丸める。四角や三角などでもOK。
  4. 200度に予熱しておいたオーブンで15~20分焼く。

※冷めると固くなるので、時間が経って食べる場合は温め直して

NOTE編集後記

三重県四日市の小高い丘にあるひよこ保育園。実は2001年頃、「わんぱくランチ」の開発中にスタッフが伺っているのです。栄養士の小嵜先生には、当時たくさんのアドバイスをいただきました。先生は、わんぱくランチが誕生した直後から、約20年のユーザーでもあるのです。「最近のわんぱくランチは、小麦・乳・卵不使用で、和食を提案しているのがいいですね。わんぱくランチからもメニューを引っ張り、スチコンメニューも活用しています。メール配信される『わんぱく食事通信』はおたよりに使わせてもらっています」と、うれしいお話もありました。栄養士の先生、調理をする先生たちのお役に立てる献立づくりに、ますます励みたいと思いを新たにしました。

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