2022年10月15日 12:00 am
      八国山保育園の園長先生、栄養士のみなさんと一緒に。左奥から時計回りに、株式会社アドム・佐橋ゆかり、今堀彩子さん、 調理室責任者・井上秀幸さん、園長・金澤啓子さん、児玉瞳さん、内藤瑠衣さん   社会福祉法人ユーカリ福祉会「八国山保育園」 住所:東京都東村山市野口町1丁目5-6 Web:http://www.yuukari-hachikoku    1980 年に設立された「ユーカリ福祉会」は、千葉、東京、神奈川で、個性豊かな12 の保育園を運営しています。 そのうちの一つである「八国山保育園」は、1997 年、公設民営保育園「東村山市立第八保育園」を市から受託し、 公設民営から指定管理者制度に移行後も運営を続け、2012 年に民間移管されて「八国山保育園」(定員100 人) となりました。同年「八国山保育園分園」(定員20 人)を開設。受託当初から産休明け保育、延長保育、障害 児保育、育児相談、地域活動事業を始め、2000 年、当時の園長である倉田新さん(現法人事務総長)が「食農 保育」を提唱し、現在に至ります。0~2歳児は育児担当制をとり、3~5歳児は異年齢集団で生活をしてい ます。 緑に囲まれ、動植物を身近に感じながら過ごしています。         地域・保護者さんからも喜ばれています 金澤園長先生  家庭では手がかかり作られることが少なくなった行事食は、子どもが食に興味を示すきっかけになると好評です。地域向けには、収穫体験を年4回実施し、リピーターが増えています。毎月の地域向けの園だよりは市役所や子育て広場に設置し、栄養士のレシピが人気です。 保護者の声を受けて、給食レシピを簡単に見られる仕組みづくりにも挑戦中です。コロナの影響で給食の試食会は止まったままですが、保護者や地域の子育て家庭をさらに巻き込みながら園の食事を展開していきたいです。     「体を丸ごと使って感じてほしい」 生きる力を育む、食農保育の実践 「園の活動の中心はまさに食で、子どもたちは、畑で野菜を収穫してくると、調理室へ直行するのです。栄養士たちは、『おいしいものをおいしいうちに』と、献立の変更を視野に入れながら、昼食に取り入れたり、おやつにしたりして、柔軟に動いてくれます。子どもたちとやりとりしている様子は、とても微笑ましい光景です」と話すのは、八国山保育園の園長・金澤先生。地域での農活動を通したふれあいを大切にする「食農保育」は、子どもだけでなく、周りの大人の成長にもがると言います。佐橋が、その取り組みの様子をレポートします。     地域との連携も進む 受け継がれる食農保育    人口15 万人ほどの東京都東村山市にある「八国山保育園」。園から10 分ほど歩くと八国山緑地があり、雑木林の尾根道や林内の広場など、子どもたちに最適な遊び場が広がります。身近にある自然豊かな環境は、園の特徴を担う大切な要素です。金澤先生は、ビオトープや田んぼのある園庭を案内してくれました。  「午前中は遊びの時間。子どもたちは、体をいっぱい動かして遊んでいます。園外の活動も多く、雨が降っていなければ、八国山緑地や、花菖蒲で有名な北山公園などに出かけます。また、近くに畑が点在し、近隣で協力してくれる農家さんの野菜畑にも行きます。梅の実が熟す時期になると、年長さんと職員で、農家さんの梅林で収穫させてもらい、梅を漬けます。うちの子どもたちは、遊びから汗をかいて戻ってきたら、自分たちで作った梅ジュースを飲むこともあります。夏の水遊びの後、梅干しを食べるのも好きです。都心へのアクセスがよく住宅も増えている地域ですが、自然が残る良い環境で、地域の方の協力を得ながら『食農保育』を実践しています」     食べるだけでなく 育てるということの価値  八国山保育園は、保育目標に「豊かなこころと丈夫なからだ」を掲げ、食と農は生活の基盤という考えに基づいて、保育の核に「食農保育」を据えています。 子どもたちは、園庭のミニ田畑や、協力生産者さんの畑で、さまざまな野菜や穀物を栽培、収穫し、食べる経験を重ねます。土から育てる感覚を自然と覚え、生産と食の距離の近さを感じるようにもなります。また、梅干しやみそなど、日本の伝統的な食品作りも行います。これらを子どもたちが体で丸ごと体験することで、生きる力を育んでいます。  金澤先生は、教え込むのではなく、生活の中で自然と生きる力が身につくように働きかけているそう。「異年齢の園児同士、園児と周囲の大人で共有できることも大事にしています。食農保育に協力してくれる地域の方は優しく温かく、卒園児のお父様が畑を管理してくれているんですよ。大小二つの畑で、なるべく農薬を使わずに野菜を作り、園児を中心に収穫しています」     旬の野菜を収穫したら そのまま調理室へ  子どもたちが畑に行くのは、午前中の主活動・遊びの時間が基本で、大きい畑(1000 坪弱)には月2回、「風の庭」と呼ばれる小さな畑(100 坪程度)にはほぼ毎日行きます。  じゃがいも、さといも、さつまいもなどの芋類は、子どもたちが植え付けから行い、毎年収穫量は200 ㎏ぐらいにもなるそう! 芋類以外の植え付けは、職員や畑を管理する方がしています。  一年で収穫できるのは、芋類をはじめ、大根、かぶ、人参、玉ねぎ、ブロッコリー、小松菜、ほうれん草、絹さや、スナップエンドウ、グリンピース、なす、トマト、きゅうり、かぼちゃ、ピーマン、トウモロコシ、枝豆、おかひじき、赤しそ、ナバナ、白菜、ブルーベリー、いちじく、キンカン、ゆず、イチゴなど。驚くほど多彩です。 収穫した野菜を、とれたてのおいしい内に調理するには、栄養士と保育士の連携が欠かせません。「野菜の成長は思い通りにいかないため、献立に沿って収穫するのは難しいのです。基本は、栄養士が立てた野菜の収穫計画(発注書)をもとに、栄養士、調理を担当する職員、保育士が子どもたちと収穫し、調理室へ運び、給食の材料になります。給食以外にも、各クラスにあるIH コンロと鍋で、庭の果物をジャムにするなど、頻繁に調理しています。クラスでの調理保育は保育士が行いますが、栄養士にアドバイスをもらうことも多いです。畑の草取りも大事な仕事で全職員で行います。5月のゴールデンウイーク頃から草取りを頻繁に行わないと、あっという間に雑草が覆いかぶさってしまいます」       生活の見通しがきく子へ 段階を踏んで育っていく  食農保育を進める上でのカギになったのが、異年齢混合のクラス編成です。以前は年齢別だったのを15 年前に移行し、3歳児から5歳児が同じ部屋で過ごしています。年齢を重ねるごとに、以下の成長をより感じられるようになったそうです。  ・年少児=興味をもって年上の子どもの取り組む様子を見ます。  ・年中児=年長の行う取り組みを手伝います。  ・年長児=中心になって取り組み、年下の子の様子も気にかけます。 「給食の当番活動でも成長を感じられます。年長児が二人一組の日替わりで行い、各クラスに常備してある一升炊きの炊飯器で、人数分のお昼の御飯を炊くことが役割です。誕生日メニュー(お赤飯やちらし寿司などの味付けごはん)の日は必要ありませんがふつうは、朝一番にその日のメニューを見てから、出席人数を確認し、調理室へお米を取りに行き、クラスに戻って、役割分担しながらお米とぎをしていますね。年少はお手伝いから始め、年長になると配膳まで自分たちで行っています。一連の流れを幼児クラス3年間の中で見て、経験し「あそこに○○がない」など、職員に伝え、確認してくれます。1年目の職員よりも、生活の見通しもできるほどです。年長になると、憧れの活動の中心になれたことで、張り切る姿もたくさん見られます。大きな畑でも大活躍してくれています」       教えて 芋料理のバリエーション 園でたくさん収穫できる芋類を、季節によってさまざまな形で展開しています。 春:   じゃがいも→ふかしじゃがいも(塩、甘みそ、ごまみそ)、揚げじゃがいも、肉じゃが、じゃがいももち、春の筑前煮、じゃがいもの焼きドーナツ 秋:   さつまいも→ふかしさつまいも、さつまいもの甘煮、大学芋、さつまいもと豚肉の炒め物、さつまいもトースト、芋ようかん、スイートポテト、さつまいもとりんごの煮物、さつまいも御飯、さつまいも蒸しパン、さつまいも入り白玉団子 冬:   さといも→きぬかつぎ(甘みそ、ごまみそ、ゆずみそ)、揚げさといも、さといも御飯、さといもの煮っころがし、冬の筑前煮、さといももち、けんちん汁         中心は野菜畑、給食の年間行事例  生活の中で食に親しむため、一年を通してさまざまな行事食を展開する八国山保育園。畑で育った野菜や穀物など、旬の素材を使用し、季節に合った献立、調理法を取り入れ、日本の伝統食を大切にしています。季節の恵みを体いっぱいで味わえる内容です。 草もち作り 畑のよもぎを摘み、杵と臼でおもちをついて作ります。 グリンピース御飯 豆の香りと美しい彩りが、子どもたちの食欲をそそります。 梅ジュース作り 園庭の小梅で、1歳クラスから年長まで各クラスで梅ジュースを作ります。 梅干し作り 幼児クラスが収穫する量は100 ㎏以上! 洗浄・選別・ヘタ取りを子どもと大人が協力しながら梅干しを作ります。赤しそは園の畑で育ったものを使います。 秋の魚料理 子どもたちの前で魚をさばき、目の前で焼いて、食べます。 おにぎりの会 園庭の田んぼで収穫したお米をかまどで炊き、子どもたちがおにぎりに します。 子どもたちは、「お豆のいいにおい」「(煮ているとき泡が)ブクブクだぁ」「(麴は)お米なの?」「これが、麹のにおい!」「(麹のにおいが)チーズみたい」など、発見の連続です。   冬の魚料理 三平汁を作ります。子どもたちの前で荒巻鮭をさばき、保育園で作っ たみそを使います。 たくあん作り 畑で育った漬物用大根を子どもたちが収穫して洗い、テラスに干し、 漬けます。年明けの冬まつりでお披露目し、日常の中で味わいます。 みそ作り 4 歳児が中心となって大豆の下処理、塩切り麹作りからみそがめへ投 げ入れるところまで行います。   はやとうりの糠漬けに挑戦!  糠漬けは日本の伝統食で、野菜の食べ方の一つとして親しんでほしいという思いがあり、調理室の前に漬物樽を置き、子どもたちが収穫した「はやとうり」を漬けました。  初めはにおいが苦手で、あまり食べない子どももいましたが、「はやとうりを収穫して調理室へ届け、栄養士が目の前で漬け込み、取り出して切ったものを、すぐ食べる」ことを、一連の流れで子どもたちに体験してもらうとおかわりをするほどみんなよく食べるようになりました。食に子どもたち自身が関わることで、捉え方が一変するのだと実感しました(井上先生) 珍しい野菜「はやとうり」の収穫の様子。                        保育園を訪れると、保育の現場と調理室に距離があると感じることがあります。同時に食育の難しさを痛感します。八国山保育園では、栄養士と保育士が、それぞれの持つ専門知識を生かし、連携しながら、子どもたちがやりたいことを実現している姿が印象的です。子どもと向き合い、仕事に手応えを感じ、自らも成長するための秘訣は? 調理室の皆さんに話を聞きました。    職員みんなが畑・食を中心に据えて、自然と行動しているので、あまり食育を意識したことがありません。調理室では、とれたての野菜をおいしく食べてほしいという思いで動いています。  調理室では朝9時に朝礼をします。全員集まる時間なので、調理室に入る栄養士、調理員全員が揃った段階で「朝礼します」と声をかけて、一旦手を止めて行います。内容としては、今日の担当(主菜調理・副菜調理・汁調理・食器・離乳食調理)の確認、アレルギー対応と未摂取食材対応等の有無を誰が担当するか、今日の予定(行事、会議、畑の収穫作業、研修などで抜ける時間など)の確認を毎日行っています。  献立は基本的には前年度の献立を参考に、今までの献立を組み合わせています。過去の献立は旬の目安にもなります。そこに行事や畑の野菜の成長具合から予想をして、食材を差し替えたり、急遽たくさん収穫できたときの調整のしやすさなども意識しながら作成していきます。違う月に提供して好評だった料理やおやつも取り入れています。  畑で採れた旬の食材を使い、おいしくするために手をかけ、食材の良さを引き出すことを意識しています。苦労はありませんが、畑の野菜を使い切るのが大変なときもあります。育ちすぎて皮が厚かったり、アクが強かったり、虫にやられていたり。細かくしたり、アクを抜いたりして日々工夫します。      洋食のような複雑な味や添加物が溢れている世の中で、素材の味が生きた和食を食べる体験を積み重ねて、自然な味を覚えることが、将来の子どもたちの食生活の基礎を築くことにつながっています。  赤ちゃんのときから畑に足を運んでいて、1、2歳になると自分たちで収穫して保育室に持って帰って、いつも一緒にいる大人が調理をしてくれたものをみんなで食べる。「家庭やいつもの給食では食べられない野菜だけれど、自分で収穫したのは食べられた」。こういった喜び、体験を積み重ねるというのが、八国山保育園のスタンダードなので、5歳になるにつれて、食べられるものが自然に増え、苦手なものでも、ちょっと食べてみようかという思いが生まれるのだと思います。  食農保育があるからこそ、子どもたちが野菜を好きになってくれます。食農のおかげで、野菜がおいしい和食の良さを、子どもたちに伝えられています。私たちは食農と子どもたちのおかげで成長できています。  今後挑戦したいのは、自家製の食品作りです。園庭の夏みかんでジャムやピール、あんずで杏仁豆腐などをクラスや給食で作っていますが、切り干し大根、園庭の桜の葉の塩漬けなど、畑や園庭で採れるもので自家製の食品を作り、給食に活用していきたいですね。         お誕生日会の献立  (ハレの日の和食)   お赤飯・ごま塩 【以上児 1 人分】 もち米 50.0g 水 42.5 g 食塩 3.0 g 食塩 0.1 g 黒ごま 0.5 g     1.  ささげを洗い、鍋に炊飯で使用する4 割量の水と一緒に入れて強火にかけ、沸騰したら蓋をし弱火で15 ~ 20 分煮て8 割程火を通す。その後扇風機の風を当てるなどして粗熱を取る(後で水を加えて温度を下げるのである程度でよい)。 2. もち米を洗い水を切ったらホテルパンに入れる(水分は加えない)。 3. 1 の鍋をザルなどでささげと煮汁に分け、煮汁に必要な量になるまで水を加える。 4. もち米に重量の8 割の煮汁を加えて、上にささげを散らして蓋をし、スチコンのコンビモードで210℃ 100%で15 分 → 180℃ 100%で10 分→ 140℃ 100%で10 分の設定で加熱する。 5. 小鍋に塩を入れて弱火にかけ、スプーンなどで混ぜながら細かくなるように乾煎りし、サラサラになったら黒ごまを加えて 香りが出るまでさらに煎る。 6. スチコンの加熱が終わったら蓋を開けて中を確認し、中央部のもち米に白っぽいところがなければ蓋をして10 分蒸らして できあがり。もし白っぽいところがあるようであれば蓋をして追加で5 分ずつスチームモードで加熱する。           筑前煮 【以上児1 人分】 鶏もも(25g) 2 枚 しょうゆ 1.5 g じゃがいも 25.0g 本みりん 1.5 g だいこん 30.0g 酒 1.0 g にんじん 15.0 g 古式原糖 1.0 g 洗いごぼう 12.0g 食塩 0.1 g れんこん 10.0 g かつお・昆布・ 15.0g 干ししいたけ 0.6 g 煮干しだし汁 なたね油 2.0 g いんげん 4.0g   1. 鍋に油を熱しよく馴染ませておく。 2. 大根、人参、ごぼう、れんこんは乱切りにし、ごぼう、れんこんは鉄分による黒変防止や、食感、必要に応じて2 ~ 3%の 酢水に5 ~ 10 分浸けておく。じゃがいもは素材を感じられる大きめなサイズに切る。 3. いんげんは斜め切りにしゆでる、もしくはスチームモードで加熱する。戻した干ししいたけは千切りにし戻し汁と合わせておく。 4. 大根、人参、ごぼう、れんこん、じゃがいもは穴無しのホテルパンなどに入れてスチームモードで8 割方火が通るまで加熱する。 5. 鍋に鶏肉を入れ、酒を加えて中火で表面の色が変わるまで炒める。 6. 4 の野菜の火の通りを確認し(大根はアクの具合も見て、もし強いようであれば一度ザルにあけてさっと洗うか水に浸けるな どしてアク抜きをする)、ホテルパンにたまった水分ごと鶏肉の入った鍋に入れる。だし、干ししいたけ(戻し汁ごと)も加え 火を強める。 7. 沸騰したら調味料を加えて弱火で10 ~ 15 分ほど煮る。具材に味が入ってきたらじゃがいもも加えてさらに5 分程煮る。 8. 味見をして味を調整したら盛り付けていんげんを飾ってできあがり。                        

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