2022年9月28日 11:26 am

最近、保育園では食育活動の一環として、保育室に炊飯器を置いてごはんを炊いている園が増えています。

今回は、保育園の給食担当者の方から、「ごはんのおいしさ」に関わる興味深いお話をお伺いしたので、みなさんにお伝えします。

 

■保育士さんが変わると「ごはん」が残るのはなぜ?

クラスは年長さん。お米を洗って水をセットするのは、当番の子どものお仕事となっています。

そのクラスの担任の保育士は初任者で月に3回、定期的に不在となるため、代替の先生が保育にあたっていました。

不思議なことに代替の先生が担当しているときだけごはんが残ってしまうのです。給食担当者がこの事実に気づきました。

子どもたちがお米をセットしているわけですから炊き方に差があるわけではなさそうです。不思議に思った給食担当者が、クラスに行って観察すると?

特に変わった様子はありませんでしたが、炊飯器をのぞいてみると、ごはんに「しゃもじの跡」がくっきり。代替の先生は、炊き上がった時点で、ごはんを軽く混ぜる(ほぐす)ことをしていなかったそうです。

後日、この代替の先生が、炊きあがったご飯をほぐすようになったら、ごはんが残らなくなったそうです。

 

■「ほぐす」ことの重要性

炊飯器は蒸らし時間が終わったところで、「ピー」と炊き上がりを教えてくれます。ごはんは、蒸らし時間が終わった時点で、しゃもじで軽くほぐすことが大切です。

炊き上がったごはんをそのまま放置すると、残った水分がごはんの表面について、粒通しの接着が強くなり、混ぜにくくなります。その状態で力を入れて混ぜると、粒がつぶれて、ベタッ、ネチョッとしたごはんになります。

ごはんをおいしく食べるためには、米粒が十分にやわらかくなったら蓋をとり、しゃもじで軽くかき混ぜて余分な蒸気を逃がし、米粒の表面をある程度かわかすことが必要です。

これを知らなかった代替の先生は、ほぐしたごはんを食べて、違いに驚き、おいしさに感動したそうです。

私自身、調理現場に働き始めて一番最初に教えられたことは、炊飯が終わった時点で、すぐにしゃもじをいれること。家庭と異なり、量が多いからこそ、ごはんのおいしさに大きな影響を与えると、先輩の栄養士から教えられました。

 

■子どもの食べ具合への影響

今回、ごはんの残り(残菜)がなくなった理由として「炊き上がったごはんをほぐしたこと」が影響したことは確かでしょう。

ほぐしたことで、ごはんがふんわりおいしくなったことは事実。

ただし、それだけではなく、保育士さんが「ごはん自体に注目」したことも大きく影響していると思います。

炊き上がった時点で炊飯器を開けると、蒸気が一気にあがり、それを混ぜるとごはんのにおいが保育室中に充満します。それは保育士さんや子どもたちの五感を刺激します。

そして、「混ぜておいしい!」という保育士さんが発信する表情や声の調子などの情報は、子どもたちに伝わり、子どもたちのごはんへの関心が高まったことが想像できます。

代替の先生の行動の変化は、ごはん自体がおいしくなった以上に子どもの食行動に影響を与えたのかもしれません。

 

■さいごに

おいしさは、五感(視覚・味覚・嗅覚・聴覚・触覚)を総動員して感じるもの。食事をおいしく楽しむためには、食材の購入から子どもが食べ終えるまでの全段階において、丁寧な作業の積み重ねが必要です。

食べることは、生活の中心にあるもの。周囲の大人がゆとりを持って、食に向き合い、それを子どもと共有することは、楽しみながら「味わう」ことにつながります。

今回は、「炊き立てのごはんをしゃもじでほぐす」という行為に注目しました。食事のおいしさに関わる要素は幅がひろいため、毎日の忙しさの中で見過ごされてしまうことも多くあります。

給食を担当する私たちは食の専門家として広い視野を持って、子どもたちの食に関わっていくことが大切だと感じました。

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