“和食給食を実践する「大典保育園」の
子どもが喜ぶ「魚の料理」ができるまで

Vol.18 大典保育園

USER NAME大典保育園

大典保育園にお伺いするのは今回が2回目です。1回目の取材では「和食給食をおいしく食べるための食事支援」について、そして2回目の今回の取材では「魚」について、購入から調理、食事支援まで、具体的な実践内容を伺いました。魚といえば和食を象徴する食材ですが、その消費量は年々減少。2011年には、魚が肉の消費量を下回りました。魚は、健康を維持する重要な役割を担っているため、食育で魚の摂取量を増やすことが課題の一つとなっています。今回は、大典保育園の実践から「魚料理の提供」について具体的な方法を学びます。(わんぱく子どもの食事研究所所長 佐橋ゆかり)

訪問したのは…

施設名

大典保育園

所在地

大阪府河内長野市小塩町325番地3

URL

https://www.taiten-hoikuen.com/

1972 年、社会福祉法人大典福祉会 大典保育園を設立し開園。
①3歳以上児混合の異年齢保育、②和食給食、③健康保育を保育の特徴として実践しています。2018 年に園舎を移転・建て替える際は、設計の段階から先生たちのアイデアが盛り込まれ、調理室は、魚をおろす下処理室があり、コンパクトで動きやすく、給食室は子どもたちの食べる様子が見える造りです。

 

3つの特徴

  1. 大家族のように過ごす「異年齢保育」
    人間として必要な力のほとんどが模倣することで身につき、遊びや人間関係の能力も異年齢間では大きく育つという考えのもと、3歳以上の子どもたちを対象に「異年齢保育」を行っています。コミュニケーション能力の向上も期待されます。
  2. 旬のエネルギーがつまった「和食給食」
    四季の移り変わりがある日本には、自然が生み出す最高の山の幸・海の幸・旬のものがあります。
    そこで、旬を意識した食材を選び、和食の献立を立てています。おやつは第4の食事と考え、市販のお菓子は使いません。
  3. 薄着、素足でぞうりの「健康保育」
    一日一回は外に出て気温を体感し、元気な体作りを実践します。また、園外では素足にぞうりをはいて過ごします。ぞうりをはくことで足の裏(土ふまずや丸天井)がきっちり形成され、判断力や集中力、持続力、意欲が高まり、情緒も安定するといわれています。

旬の食材を使って全て手作り
「和食給食」9つの特徴

大典保育園が、魚を中心とした「和食給食」を始めたのは2007 年4月。現在の園長・山中麻恵先生が園長に就任する直前の2006年11月に、料理講習会に参加し、「和食給食の考え方」に感銘を受けたことがきっかけでした。
 園長は、「和食給食は、栄養士の石橋先生の協力が得られなかったらできなかったことです。保育士に話す前に、まず当時の主任保育士と栄養士に、『今の給食を変えたい、和食給食をやってみたい』と話しました。給食の内容が大きく変わるため、不安があったと思いますが、石橋先生は『やってみましょう』と言ってくれました。もし、あの時に『できません』と言われていたら、今の和食給食はありません。本当に感謝しているんです」 と、微笑みながら、当時を振り返ります。
 それから16年、大典保育園では、「和食給食」を園の特色の一つとして掲げ、栄養士、調理員、保育士、保護者の理解と協力を得ながら進化を続けています。園長は、「コロナ禍でも、物価高騰でもあまり苦労せずに乗り切れたのは、和食給食のおかげかも」と、笑いながら話します。和食給食は、子どもたちと職員の心と体の糧となり、健康を守っています。
和食給食では、以下の9つを徹底しています。
・毎日の主食はごはん。毎朝、園で三分づき米に精米する。
・毎日具だくさんのみそ汁。だしは昆布と煮干で取る。
・週2回の魚料理。魚はまるごと買って、園でさばく。
・野菜料理は、煮物、和え物、お浸し、酢の物。
・冷凍食品・加工品は、一切使用しない。
・牛乳は使用しない。
・卵は極力使わない。
・小麦粉は使わず、米粉、米油を使って調理する。
・調味料は上質でおいしいものを選び、丁寧に使う。

 今回注目するのは、3つ目の「週2回の魚料理。魚はまるごと買って、園でさばく」です。一般的には、「魚」というと、子どもが好まない、新鮮な魚を購入できない、魚を増やすと食材コストが上がる、といった心配があります。大典保育園では、どのような工夫をしているのか、山中園長と、栄養士の石橋先生に詳しく教えてもらいました。

買い物に行くことで、新鮮な魚を購入

  おいしい魚の献立を提供するために、まず何から始めるのでしょうか? 午前11時、園の正門前で待っていると、山中先生は、給食に使う食材の買い出しから戻ってきました。たくさんの野菜と共に、園児と職員150人分のアジを下処理室に運び入れます。
 「買い出しは毎日、和食給食を始めた16年前から私が行ってます。ちょうど取り引きのあった納入業者さんが辞めることになり、それなら自分たちで全部やってみよう!ということで始めました。実は、それまで食材の値段はあまり気にしていませんでした。見直してはじめて、『一切れでこんな高い魚を食べているの?』ということに気づきました。魚は切り身で買うのと、まるごと買うのとでは、価格の差に驚くほどです。魚は包丁を入れれば入れるほど高くなるので、自分たちでさばけるということは、低コストですみます。しかも新鮮でおいしいですからね」と山中園長は話します。
 魚の献立は週に2回。火曜・金曜で、翌朝の生ゴミの回収日に合わせています。注文は前週に出しておき、前日に魚屋に買いに行き、下処理をしておきます。
 衛生面では、鮮魚の搬入経路、作業区域、保存用冷蔵庫での保管など、管理を徹底しています。
 定番は、アジ、サバ、イワシ、ししゃも、サケなど。予定していた魚がそろわない場合は、他の魚に代えます。不漁でも、ししゃもだったら手に入るので、これまで困ったことはないとのこと。価格が高い場合は、事前に魚屋さんから魚を変更するかどうか、確認の連絡が入ります。長年のおつきあいで、保育園が何を求めて何を大切にしているかわかってくれているからこそです。

みんな最初は魚がおろせない
ハードルは一つずつ乗り越えて!

 魚料理の準備については、前日に魚を下処理して、内臓などのゴミ出しを終え、当日にフライや天ぷら、豆腐と混ぜてハンバーグなどにします。今の時代、たとえ調理員であっても魚がおろせる人は少ないです。
 栄養士の石橋先生は、「魚をさばくことは和食給食になるまでしていませんでした。最初は大変そうだし、私にできるか不安でした。教えてもらいながら、いろいろな魚を手際よくさばけるようになりました。その魚を子どもたちが残さず食べてくれるのを見るとうれしくなります」と話します。 翌日のアジの下処理をしていた調理員の中條さんは、「魚屋さんみたいでしょ!」と。150人分のアジを慣れた手つきでさばきます。

魚は重量(キロ)で発注。当日の魚の大きさ、
数を見て、何切れに切り分けるかを決めて下処理に入ります。

まな板を斜めにして、水を流しながら硬い
「ぜいご」を落とすところからスタート。

3枚におろし、
上身、下身、骨に分けます。

中央の骨の部分は切り落とします。
(左:子ども用、右:職員用)

全て手作りの給食
調理室のチームワークも欠かせません

 園長は「給食室には、良い意味でピリッとした緊張感があります」と言います。
 和食給食では、精米機で三分づき米にすること、だしをとること、魚をおろすこと、さらに野菜をたくさん使うため、野菜の切り込みにも時間がかかります。だからといって、調理人員が多いわけではありません。150人分の給食を正規調理員2人、パート1人で作っています。もちろん、離乳食もアレルギー対応食もあります。
 そこで重要なのがチームワークと役割分担。調理員の中條さんは、「今、誰が何をしているのかを全員がわかって、動いています。栄養士の石橋先生が、調味料の分量までしっかりわかるレシピを作ってくれているので、私たちは、それを丁寧に作るだけです」と、話します。

「魚」を主菜にした献立作成

  実際に、どんな魚で、どんな献立を立てているのかを、石橋先生に聞いてみました。
 「よく使うのは、カルシウム含有量が高いししゃもで、月2回は出します。うちの園児は魚が大好きです。ししゃもはまるのまま出して、それぞれ自分の一口で食べています。ほかには、アジやサバ、イワシが定番です。アジや大きなイワシは下処理に時間がかかり、小さなイワシは、手開きでかなりの数を開かないといけない時もありますが、扱い方はやれば次第に慣れてきます。イワシの背びれはつけたまま。ミキサーにかけてさつま揚げやハンバーグにしたり、揚げ物にしています。魚の鮮度が良いのがおいしさの理由ですが、保育の先生たちが、子どもたちに上手に食べさせてくれているのも、魚献立が人気の理由だと思います」

 「解体ショー」で食べることを考え
魚にも骨や内臓があることを学びます

 「骨抜きの魚を使う園は多いですが、うちは魚にも骨があるんだということを伝え、あえて全部取り除くということはしていません。未満児に対しては、骨が入らないように大きさなどに気を配っています」と山中園長。その一例が「魚の解体ショー」です。「子どもたちの目の前で魚をさばき、『魚も小さな魚を食べて大きくなるんだよ。内臓や血があって、それは私たち人間にもあるんだよ。その魚の命をいただいているから、残さず食べないといけないよね。私たちがおいしいと食べたら、魚は喜んでくれるんだよ』と伝えます。食べる時に骨は気をつけていますが、刺さってしまうこともあります。子どもは一回その経験をすると、次の時にドキッとしますが、保育の先生たちが大丈夫だよと上手に食べさせてくれます。骨が刺さると痛いというのも経験で、それで保護者から何か言われることはありません。病院で取ってもらった子もいますが、その骨は家庭に持ち帰っていました。もちろんトラウマになってはいけませんが、子どもたちはいろいろな経験を経て成長し、チャレンジして食べてくれます」。内臓以外は余すところなく使い、アジの骨は素揚げして、骨せんべいにして食べてもらっています。

子どもたちが描いた「解体ショー」の魚。切り落とされた頭部、上身、下身、骨などを個々に表現しています。子どもたちが主体的に解体ショーに参加し、集中して観察できたことがわかります。/p>

カツオをダイナミックにおろす園長

子どもたちは、解体された「魚」と「イカ」に興味津々。

今日の給食は何かな?
子どもが待ちわびる「和食給食」

 この日の献立は、「ごはん、みそ汁、アジのフライ、筑前煮、みかん」。アジのフライも子どもたちに大人気の料理の一つとのことです。
 給食室はガラス張り。保育活動時に、給食室の前を通る子どもたちからは、調理している栄養士、調理員の姿が見えます。給食室から漂うだしの香り、みその匂い、フライの香ばしさ。それにつられてヒョイッと給食室をのぞき込む1歳児さん。山中園長はこの食環境にこだわりました。子どもたちは、自分たちのために働いてくれる人を、見て、感じています。食べることは生きることであり、生かされること。調理員、保育士、保護者、子ども、すべての人が「食」を通してつながっています。

 給食の時間。未満児さんは、アジのフライを手づかみ食べで上手に口に運びます。新鮮なアジは身が柔らかいので、自分でパクパクと食べ進めることができます。未満児さんのクラスは、驚く程、静かで穏やかな雰囲気の中で、子どもたちが給食に集中しています。
 以上児さんは、食具を上手に使ってアジのフライを食べます。アジのフライを満足そうに一心に食べ続ける子ども。横のお友達と微笑み合いながら、食事を楽しむ子ども。みんな、とっても幸せそうです。子どもたちの姿から、給食のおいしさが伝わってきます。

時間のかかる一食一食は
将来の子どもたちのために!

 「働きながらの子育ては、本当に大変。特に疲れて帰ってからの夕食の支度はお手上げです。だからこそ、園では昼食やおやつにどれだけ手間をかけて子どもたちに食事を届けるかが重要なのです。園では友達と一緒に、褒められたり、励まされたりしながら食べるので、子どもたちは、家では食べない食材や料理でも頑張って食べようとします。人の味覚は、10歳までに決まると言われています。園で過ごす6年間は、味覚の確立に対して重要な役割を果たしていかなければならないと思っています。誰だって好き嫌いはあります。一番残念なのは「食わず嫌い」。はじめて食べた時においしかったら、それは一生ものです。その食体験が次につながります。おいしく食べるということが何よりの栄養ということですね。卒園式の好きな給食のアンケートでは、ししゃもの天ぷらやアジフライが上位なんです。先日、卒園児と会った時には『保育園のみそ汁が飲みたい』と。うれしいですよね。その子の中に、食べるものを選択する味覚、おいしいと思える基準が宿っていると思うと心が熱くなりますね」と、最後に山中園長が話してくれました。

子どもたちが大好きな「骨せんべい」。魚をおろしているからこそ、食材ロスもなく栄養満点!

山中園長先生・栄養士の石橋先生発
給食がもっとおいしくなるアイデア

1: 主食のごはんがおいしくなる方法


 毎日の主食はごはんで、奈良の農家さんから玄米を購入しています。毎朝、園の精米機で三分づき米にして炊き、ぬかが残った状態で食べています。以前は「白米で食べるのが当たり前」と思い込んでいましたが、これは栄養価も高いですし、食べ出したら白米に戻れなくなります。分づき米は精米した状態で置いておくと臭いますが、精米してすぐ炊くとおいしく食べられます。色があるので、お寿司にすると焼き飯みたいになりますよ。精米機は本当に便利で、園の職員は気に入って、自宅でも小さなタイプのものを購入している人が多いです。玄米を購入し、食べる量だけ精米してすぐ炊くと、おいしく食べられるし、コストも下がります。
 また、園で白米を食べていた頃は、市販のふりかけをよく買っていました。ごはんがなかなか進まないので、おかわりをしたらふりかけをかけてもらえるというルールがあったからです。市販のふりかけが無くても、噛めば噛むほど味のある分づき米は栄養面やコスト面でのメリットも大きいですね。

保護者の皆さんで買ってくれたという精米機。

2: みそ汁の味がぶれない方法


  みそ汁は、昆布と煮干でだしを取り、具をたっぷり入れています。
 具は、メインの食材一つを日替わりにし、他はいつもと同じで、たまねぎ、にんじん、豆腐、油揚げなど。1種類だけが変わるので、毎日味が安定し、同じ味が好きな子どもたちは親しみを覚えます。またいろいろな野菜が入っていることでうま味が強くなります。
 だしは淡路島産のいりこと北海道産の昆布で、前日からしっかり取っています。出汁をしっかり取っているため、余分な調味料は必要ありません。みそは一般的なものです。だしをとった後の昆布は捨てずに、昆布おにぎりに使ったり、みそ汁の中に細かく切ったのを入れておくときもあります。

昆布は北海道から1年分取り寄せて、子どもたちの前で梱包を解きます。天日干しをして、香りを確かめます。

給食のだしは前日から「水出し」をして当日に取ります。

今日の給食

三分づき米

材料(以上児1人分)

  •   
  •    

  • 三分づき米50g
  •   
  •    

小松菜のみそ汁

材料(以上児1人分)

  •   
  •    

  • 小松菜9g
  • しめじ5g
  • たまねぎ8g
  • にんじん3g
  • 生揚げ10g
  • 米みそ(甘みそ)6g
  • いわし(煮干し)1g
  • 昆布(だし用)0.7g
  •    

あじのフライ

材料(以上児1人分)

  •   
  •    

  • あじ45g
  • 5g
  • パン粉7g
  • 米粉2g
  • 米油8g
  •    

小松菜のみそ汁

材料(以上児1人分)

  • 小松菜9g
  • しめじ5g
  • たまねぎ8g
  • にんじん3g
  • 生揚げ10g
  • 米みそ(甘みそ)6g
  • いわし(煮干し)1g
  • 昆布(だし用)0.7g
  •    

筑前煮

材料(以上児1人分)

  • 鶏モモ肉15g
  • だいこん27g
  • にんじん10g
  • ごぼう6g
  • 板こんにゃく5g
  • 干ししいたけ 0.5g
  • しょうゆ2g
  • みりん2g
  • きび糖1g
  •   

  • 食塩0.1g
  •  

  • 煮干しだし汁7g
  •   

作り方

  1. 鶏肉は食べやすい大きさに切る。
  2. 干ししいたけは前日からもどしておき、小さめに切る。
  3. ごぼうはよく洗って皮つきのまま一口大に切り、圧力鍋で1分加熱する。
  4. だいこん、にんじんはよく洗って皮つきのまま食べやすい大きさに切り、スチコンでにんじんは10分、だいこんは15分スチームして柔らかくしておく。
  5. 板こんにゃくは小さめに切る。
  6. 調味料を合わせておく。
  7. ホテルパンに1~5と調味料を入れて混ぜ、蓋をしてコンビ170℃20~30分。
  8. 終わったら具を混ぜ、急冷に5分程して味を染み込ませる。

野菜量が多い「和食給食」。スチームコンベクションオーブンを使うことで効率よく調理しています

写真左から、調理員沖田美香、調理員宇羅きよ美、調理員中條一子、栄養士石橋のりこ

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