2017年9月5日 4:57 pm
「科学的根拠に基づく“こどもの食事のあり方”」 2017年9月5日 講師 佐々木敏(さとし)先生 プロフィール 東京大学大学院 医学系研究科 社会予防免疫学分野教授。女子栄養大学客員教授。 医師・医学博士。国立健康・栄養研究所などを経て現職 栄養士はすばらしい仕事ぶれずに、自信を持ちましょう 自らの仕事を振り返る機会は、意外と少なくありませんか。アドムでは、栄養士のみなさんが現場ですぐに生かせる、保育所向け給食セミナーを定期的に開催しています。 今年9月には念願が叶い、食事摂取基準(厚生労働省)策定委員を務めるなど、日本人の健康増進において中心的な役割を担う佐々木敏先生を講師にお招きし、セミナーを行うことができました。申し込み多数のため、参加いただけなかった方にもぜひ知ってほしい2時間強に及ぶ内容を、ポイントを絞って紹介します。(佐橋ゆかり) 50年後に感謝される仕事を目指して 栄養士として働くみなさんの仕事はすばらしいです。僕はもともと医者ですが、今は診察しておりません。教育と研究で、医者たちの背中を押しているのが今の仕事です。医者の仕事よりも、みなさんの仕事の方がよっぽど偉いのです。 医者は病気の人を治す。だから、ありがたがられるのです。病気にならない体を作ることの方がよっぽど大切です。それはだれが作ると思いますか。みなさんです。小さなお子さんの基本を作る仕事なのですから。 そこでお願いがあります。間違った給食を出さないでください。間違ったことを教えないでください。間違いは50年後に出てきます。そのころみなさんの命は、おそらくない人もいるでしょう。僕は確実にありません。だからといって、逃げたりしないでください。 僕は「病気にならない体を作りたい」と、予防医学に転じ、予防のための研究を始め、すごい社会貢献をしていると思っていました。そうしたら世の中のだれもが、僕に頭を下げなくなりました。僕は今、だれからもありがとうと言われない医者です。これが僕の理想像です。 みなさんは、もともとそのようなお仕事です。今ありがとうと言われることに楽しみを見出さないでください。50年後、70年後、そのときの子どもたちが大人になり、おじいちゃん、おばあちゃんになり、「健康に暮らしています」と、お墓に花を手向けてくれる。そんな仕事をなさってください。 食育は、先生の連携とぶれない知識で 最近、食育に対して考えていることがあります。食育は総合科学ですよね。すごく難しい。感覚ではない。ものすごく博学だと思うようになりました。 さて、キャベツに蝶がかじった穴が開いていたらどう思いますか。僕は「キャベツが好きな蝶=お友達がかじった」と思ってほしい。キャベツを食べる蝶と、キャベツを食べる人間は同じものを奪いあう共通の関係にあります。「野菜は健康的だ」ということはもちろんみなさん知っているでしょうが、蝶にとってもキャベツは本当に健康的か、ということです。それを知らずに「野菜はいいね」という教育はしないでほしいのです。 食育を担当する先生が理科の先生の知識を全部知っていなさいというのは無理です。それぞれの分野が得意な先生たちと連携をして、食育を進めていただきたい。そのためには、その人たちに敬意を払うことです。 もう一つは、その人たちから「さすが栄養の先生ですね」と、敬意を払ってもらえるくらいの、莫大な知識を持っていてほしいのです。それは正しい知識であり、ぶれない知識。流行りの知識ではありません。 何かを教えるということは、その周辺領域も含めて、教える知識の10倍の知識を持っていなくてはならない。僕がある先生から言われた言葉です。 みなさんが覚えておられる授業や講義は、先生の冗談や枝葉の部分ではないですか。子どもたちはそこを捉えているのです。そこがぶれては困るのです。食育に関しては、ほかの科目の先生、場合によっては保護者で造詣が深い方の支援を得て、進めていくのがよいと考えています。 3つの伝えたいこと 1、流行には要注意!話は単純化され盛ってある 今日は3つのテーマでお話します。まず一つ目「流行には要注意!」から。保護者の方から疑問、質問が出ます。自身の業務の中で疑問が生まれてきます。それに対してみなさんは、どのように調べて解決されていますか。 僕の周りを見てみると、今の時代はインターネットで調べます。ネットと書籍の文章を比べると、ネットは短く、話を単純化してある。単純化したとき、読んでもらうために話を盛ります。インスタグラムで流行っているのは、立体的で高さのある食べ物です。見た目だけではなく、話も盛ってあるのです。 盛って、単純化されている話はやばいですよね。効率的にぶれないで、信頼される仕事をしたいとき、そのやばさを見抜く技を身につければいいのです。一つひとつの疑問を解こうとせず、疑問の中心となることを一般化する。元の規則をしっかりと知っておくということです。具体例「野菜先食べは、よいかどうか?」を挙げて説明します。 「野菜先食べは、よいかどうか?」 栄養学では、必ず人間を使って実験をします。栄養学だけではなく、「科学研究はすべからく研究論文として発表すること」というルールがあります。想像の場合は「想像ですが」と言わなくてはならず、研究論文に基づかないものは「なかったもの」とします。 僕が示すものはすべて研究論文に基づき、図の右下に出所を書いています。世界的に書く規則が決まっていて、最初の#数字は関係なく、その後が世界共通の書誌情報と言います。研究論文の元を世界が公開し、世界共通の書誌情報でどこからでもアクセスでき、読めるようになっています。「野菜を食べると、血糖値は上がりにくいか」という仮説に対しても人間で調べられ、研究論文として発表されました。そのデータをひも解いてみます。 まず、「健常者・糖尿病患者の中で、どちらの血糖値が上がりやすいかを見たい」という実験で、「野菜を先に食べると血糖値が上がりにくい」ということが分かりました(図1)。これを事実といい、最近はエビデンスという習慣があり、「エビデンスがとれた」というわけです。「野菜を先に食べると糖尿病にならない」と言われ始めた一つの根拠です。 僕はこれだけでは不十分だと思いました。糖尿病は1日でかかり、1日で治る病気じゃない。というわけで別の研究を探してみると、やっぱり科学はすごい。ちゃんと研究されています。2型糖尿病の外来患者で、「野菜を炭水化物よりも先に食べる群」と「食品交換表で食事指導する群」に分けられた実験です(図2)。それぞれの方法で栄養指導を24カ月続け、1日の中の短期効果、2年間の長期効果ともに、「野菜を先に食べると血糖のコントロールによい」ということが分かったわけです。「科学的に証明がされた」ということですが、まだ先があります。 黒い部分を読んでください(図3)。実験の条件に「血糖値を上げない食べ物をいっぱい食べるよう奨励した」と書いてある。ここでエー!と思ってほしいのです。野菜先食べだけではなく、果物を食べ過ぎないよう注意し、20回咀嚼して、さらにそもそも血糖値があがらない食べ物を食べてもらっていた。この研究は盛ってあり、通常の食べ方よりも、野菜をまとめて食べた方が良いという科学的証明はなされていなかったのです。 みなさんはこの結果から、子どもたちに、保護者の方に、野菜先食べを推奨したいと思いますか。 もう一つ、「低糖質ダイエットでやせるか?」のデータを見てみましょう。流行っていますね。世界中で論文が出されています。 肥満の方を集めて、低糖質・バランス・低脂質の3つのダイエット方法のうち、一つをやっていただいた実験の結果です(図4)。変化量、平均値、一目見たらわかります。「どちらも同じくらいやせる」。 これから分かることは、ダイエットしたい人はどれでもいいからやってみたら、ということです。このデータは、ダイエットの成功談ではなく平均値なのです。 みなさんは、盛られていないということを楽しめる、科学的に考えられる人間になってほしいのです。 図1 図2 図3 図4 2、管理者こそ科学的に考えよう科学的思考のできない専門職は専門職ではない 2つ目は「管理者こそ科学的に考えよう」です。科学的思考のできない専門職は、専門職じゃありません。みなさんは子どもたちの食事管理、栄養管理のお仕事ですよね。流行に惑わされないための対策は、「科学的に考えよう」です。 科学的ということはどういうことでしょう。思考、考え方の問題です。 「食塩水の中では卵が浮きます」(図5)。これは必ず小学校で実験します。食塩水に卵を入れてかき混ぜて、だんだん卵が浮いてくる。子どもたちのほとんどが一生覚えているという実験です。ところで「砂糖水でも浮きますか?」。出典元の先生が子どもたちに要求しているのは、浮くか浮かないか、暗記することじゃなく、なぜそう考えるかです。3番目の質問は僕が大学生用に付け加えたものです。 ある子どもがこう答えたそうです。「砂糖水では卵は浮きません」と。学校のプールより海の方が僕の体は浮く。プールにいくと沈むけど海だとちょっと浮く。海は塩辛い。浮くというのは塩辛いかどうか。砂糖水は甘いから浮かない、と考えたのですね。 先生は子どもを褒めるそうです。「共通項を探し出す」という、科学の基本を身につけているからです。そんなこと覚えていないから僕は知らないという子どもではダメなのです。子どもはもともと考えるのが大好きなはずです。 自分の経験と自分が習ったことの共通項を見つけ、そこから普遍性を見出す。それがサイエンス。科学です。これと同じで、僕はもっと科学的でおいしくて、役に立つ教育、食育ができると考えているのです。 ここで、栄養学のクイズを出します(図6)。「○○控えめ」。これに入るのは、カロリーですか、エネルギーですか。 答えはエネルギーで、エネルギーとは仕事をすることができる能力。カロリーという言葉はなく、単位です。さまざまなものの単位は国際単位系(SI)で決められています。カロリーを選んだ人は栄養の専門家ではなく、素人、一般人ということになります。これは結構見分けるコツです。 「○○の過剰摂取」。食塩、それとも塩分でしょうか。当然ながら「食塩」。栄養学用語に「塩分」はありません。食塩と塩分がどう違うかは、中学校3年生の理科の中和反応できちんと学んでいます。子どもたち、保護者さんには、一般の人がよく使う「塩分」、みなさんの間、専門職同士で話すなら「食塩」と言ってください。薬の専門名を患者さんに言っても上手く伝わらないのと同じように、一般の人が分かる言葉を選ぶのが専門職です。 日ごろから、ちゃんとデータを見て栄養を科学的に考える習慣をぜひつけてください。 図5 図6 3、基本がたいせつ 地味で大切でぶれないことをつづけるのが専門職の仕事 3つ目は「基本がたいせつ」。専門職は誤解されているところがあるかと思います。それぞれ特徴ある仕事をされている方、みなさんも専門職であり、僕も専門職であります。専門職の仕事は新しいことをすることじゃない。去年と今年でやっていることが変わったらまずいですよね。地味で退屈で、ぶれないことをするのです。 では、データを見ていきます。現在の日本の小中学生で、最も理想からかけ離れている栄養素は何だと思われますか(図7)。理想は、日本人の食事摂取基準2015年版です。 ところで、僕がなぜ保育所・幼稚園のデータを出さずに、小中学生のデータを出したのか分かりますか。保育所・幼稚園児を対象にした全国調査がなされていないから、見せるべきデータを僕が探し出せなかったのです。これは、「子どもたちが何をどれだけ食べているかを知らないのに、何をどれだけ食べさせていいのか悩んでいる」ということではないでしょうか。 実は僕の研究室で2~3年前から、全国の保育所(幼稚園は除く)と協力して、400人の園児が関わり、食事栄養調査を行いました。集まったデータを整理し、来年には世間に報告できるようにしたいと思っています。これから例で取り上げる小中学校のデータは、僕の研究室で手掛けた、日本の給食実態を世界に初めて発信した research paper です。 一番理想からかけ離れているのは、断トツ食塩です(図8)。87%の子どもがうまく食べられていません。多すぎたということです。続いてカルシウム、脂質、食物繊維は約半分の子どもがうまく食べられていなかった。不足しているのでは、と思われた方も多いタンパク質は、調査対象の910人全員うまく食べられていた。これが事実です。 「減塩1番。2、3、4番がほぼ同等で、食物繊維、油、カルシウム」。実態に基づいて給食を作り、保護者の方へのお便りに書いてください。薄味をおいしいと食べられる、カルシウム、油、食物繊維をしっかりと食べられる子どもを育ててください。 図7 図8 理想とはかけ離れた食塩摂取量。 調査によって80~90%の子どもが、食塩が多すぎることが分かりました。大人も同様です。カルシウム、食物繊維と言っている場合ではありません。野菜、野菜と流行っています。野菜も肉も魚も豆腐も、悪いものではありません。どこにも悪者はいません。けれども、野菜を食べればいいという単純なものではないのです。 データを見ることで、「日本の学校給食の構造は変えるべきところを変え、温存すべきところを温存する」と、自信を持って、ぶれないでできるようになるのです。これは保育所・幼稚園でもやるべきだと僕は思います。やるべきかどうかは、みなさんの決心でもあるのです。 国連、地球全体で今まで出された栄養学の研究を集めまして、その専門家がこうすべきという5つの案「生活習慣病対策のために世界が行うべき5つのアクション」(図9)を出し、世界で大きな反響を呼びました。1番はタバコのない社会、当然です。地球レベルでみると、バランスよく食べましょうが3番目. 減塩は2番目です。 食塩がなぜそんなに怖いのか、それは血圧です。 血圧は60歳を過ぎると一気に上昇するのではなく、年を取るごとにだんだんと上がってきます。血圧の上昇は食塩摂取量で決まります。平均年齢と平均収縮期血圧のグラフ「現在14g/日の食塩を毎日食べている男性が、そのまま65歳になった場合と、7g/日に減らして65歳になった場合の血圧の差」を見てください(図10)。どれくらい減塩するかで、どれくらい生きられるかが決まるのです。減塩するのは、食事を始める3歳から。まさにみなさんのお相手です。 みなさんが提供する給食とみなさんの指導が、減塩にとって1番の薬です。一生のうちで1番の宝物です。塩はおいしい。僕もずっと減塩をやってきて、指導をしてきて、自分自身も変えられないくらい難しい課題です。 子どもたちの半世紀先の健康は、みなさんの手にかかっております。私の今日の話が役に立てば本当にありがたいです。ありがとうございました。 図9 図10 全国から集まった栄養士のみなさん  “生きた役に立つ情報を”と、佐々木先生は栄養学の今を分かりやすく解説し、叱咤激励を交えて熱く語ってくださいました。日本全国から集まった参加者は300人。みなさんメモと取りながら熱心に聞き入っている様子で、私自身も大きな刺激となりました。 「自分の知識が正しいのか間違いなのかを見直す、貴重な機会になりました。日本の園児たちの給食に関するデータが、今後まとめられるのを期待しています」 (佐藤のぞみさん) 「ズバリとおっしゃる先生の語り口は偽りがなく、熱意が伝わってとてもためになりました。特に食塩の話は印象的。子どもの命を預かる大切さを改めて感じました」 (佐藤倫子さん) 「正しい知識の見極め方についてポイントがつかめました。お便り作りなどの業務も、きちんと情報が伝えられていたのか、振り返るよい機会になりました」 (古谷美幸さん、情野友紀子さん) 「はっきりと具体的に示してくださり、栄養士としての責任を感じました。子どもたちを守る意味では、保守的ではなく、教育者として関わっていきたいです」 (池島あかねさん) 「佐々木先生のセミナーには何回か参加したことがあります。その度に最新の情報が得られ、励みになります。正しい知識を現場ですぐに生かしていきたいです」 (鈴木亜希子さん) 「減塩が大きな課題であることに驚きました。意識はしていますがなかなか難しく、おいしさとのバランスには工夫が必要です。もっと気を付けなくては」 (森永陽子さん) 最後に  参加者のみなさんもおっしゃっていましたが、佐々木先生から叱咤激励のお言葉をいただき、身の引き締まる思いでした。保育園給食の課題が「減塩」であることは、栄養士だけでなく、園に関わるすべての人に正しく理解してもらう必要があり、さらには家庭にも、必要性をしっかりと伝えていかなくてはいけません。 アドムでは減塩メニューの開発に一層力を注ぎ、食塩に関する正しい情報を提供してきます。みなさんで一緒に、この難しい「減塩」に、着実に取り組んでいきましょう。(佐橋ゆかり) © 株式会社アドム セミナーレポート

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