こんにちは。子どもの食事研究所 所長の佐橋ゆかりです。
今年はコロナウイルスの件で、落ち着かない中、新しい年度がはじまりました。
給食では、給与栄養目標量の基となる、日本人の食事摂取基準が2020年版に改正されました。
今までにも、繰り返しお伝えしてきましたが、今回の食事摂取基準は、抜本的な改正はありません。令和2年3月31日に厚生労働省子ども家庭局からだされた通知「児童福祉施設における『食事摂取基準』を活用した食事計画について」も2015年から変更はありません。
「改正がありませんよ」とお伝えすると、「いやいや、食塩の目標値が下がったじゃないですか!」と言われることがありますが、、、、
実は、食塩の目標値は、本来はもっと少ない方がよいもの。食事摂取基準2015年版においても、2020年版においても、実際の摂取量を基に、現実的な目標値が設定されているに過ぎません。
つまり、「食塩摂取量はさらに減らすべきもの。」という点では、2020年版の食事摂取基準においても全く変わっていないと言えます。5年後の改正では、さらに低い目標量が設定されることになるでしょう。
各地で6月頃から始まる給食指導監査は、食事摂取基準2020年版の内容を考慮して実施されます。
今回は、給食指導監査について記載します。
■指導監査の目的
給食指導監査は、子どもの健康維持・増進のために、保育園で提供している給食を監査し、必要な場合は、指導を行い改善を求めるものです。
具体的には、「子どもの食に関連した法令・指針」と「実際に提供した給食内容」を保育園が提出した書類を基に照らし合わせて評価します。
監査と言うと「とにかく指摘されないようにしなくては!」と思いがちですが、、、、
実際には、子どもたちの健康増進のために、現時点で不十分な点を教えてもらえる貴重な機会です。
■監査の内容
保育園給食で不可欠な要素は、
・安全の確保 ←アレルギー対応を含む
・必要な栄養量を提供できる給食
ですが、保育園の給食では、職員間の知識の差もあり、毎日の給食で上記の2つが優先されていないことがあります。
栄養補給を例に上げると、日本人の食事摂取基準に従った献立を作成する場合、
- 精製度の低い穀類を使用する
- 魚を増やす (肉『脂』を減らす)
- 豆・大豆製品を増やす
- 野菜、特に緑黄色野菜の量を増やす
- 砂糖を減らす
- 塩分を減らす
ということが必要になりますが、、、、
これを実現しようとすると
- コストがかかる
- 子どもが食べ慣れていないため食事支援に時間がかかる
- 子どもに人気がある料理やおやつが出しにくくなる
- 薄味になって美味しさが減る
といったことが生じます。
給食担当者としては、上記の問題がなければ、食事摂取基準を満たす献立作成ができるのに!というのが本音。「鉄分・食物繊維が不足する。飽和脂肪酸エネルギー比が高くなる」といったことは、この制約がクリアできないせいで起こります。
実際の給食指導監査では、この点が指摘されるわけです。
各園、保育園給食には歴史がありますが、保育園給食の基となる食事摂取基準値は、根拠があるもので、変化していきます。子どもの健康を守るためには、献立の内容を基準に合わせて柔軟に変えていくことが必要です。
変えるべき点を指摘してくれるのが、指導監査だとしたら、給食担当者にとってはチャンス!保育園全体で給食の内容を見直すきっかけになると思います。
■給食の評価について
保育園では、子どもに提供する食事(栄養量)だけではなく、保育における食育や食環境づくりも重要視されています。
食事の提供ガイドラインに記載された評価のポイントは以下の通りです。
<評価のポイント>
- 保育所の理念、目指す子どもの姿に基づいた「食育の計画」を作成しているか
- 調理員や栄養士の役割が明確になっているか
- 乳幼児期の発育・発達に応じた食事の提供になっているか
- 子どもの生活や心身の状況に合わせて食事が提供されているか
- 子どもの食事環境や食事の提供の方法が適切か
- 保育所の日常生活において、食を感じる環境が整っているか
- 食育の活動や行事について、配慮がされているか
- 食を通した保護者への支援がされているか
- 地域の保護者に対して、食育に関する支援ができているか
- 保育所と関係機関の連携がとれているか
上記の内容は、「栄養」よりも「食環境」を整えること関する項目が多くなっています。
東京大学の佐々木先生は、この状況について、、
「食環境と栄養摂取量の関連ははっきりわかっていないこと。保育園給食では、一人一人の子どもがどれだけの栄養素(量)を摂取できたかが最も重要」と言います。
つまり、「食環境が良い=子どもの栄養状態良い」は直接結びつかないが、「子どもが必要な栄養素(量)を摂取した=子どもの栄養状態が良い」は明らかに関連があるということです。
そのため、給食指導監査では
- 給食での給与栄養量
- 個々の園児の成長曲線 ←給食の評価
が、重点的にみられます。
保育園では、「献立・栄養」について、給食担当者任せになりがちですが、子どもにとっての食育は、食べる体験そのものなので、ここが一番重要なところです。
監査で「不足する栄養素がある」または、「食塩を減らす必要がある」と指摘されるようなことがあったら、給食担当者は、施設長に「献立そのものを変える必要がある」ことを伝え、園の食育課題として取り上げる必要があります。
伝えずに変更したら「子どもが食べない」ということに陥ります。
- 薄味で食べにくい
- 野菜が多くて食べきれない
など
保育園では、健康な食事を、子どもにおいしく食べてもらうという共通の目標をもって、
・調理員・栄養士は材料の選択・調理について
・保育士は、食事支援の方法
について、工夫を重ねていく必要があります。
■さいごに
監査を行っている行政の方から、保育園によって給与栄養量に大きな差があり、そこを改善するのが難しい。というお話をお伺いしました。
繰り返しになりますが、
保育園給食で最優先にすべきことは、
- 安全性の確保
- 子どもに必要な栄養素(量)の提供
東京大学の佐々木先生は、「食事は、誰にとっても身近で簡単に感じてしまうのが問題。『健康な食事』の難しさを知ることが大事。」と言います。
既に「自園では、子どもの栄養必要量を充足した給食を提供できている!」という方もいると思いますが、、、、
- 子どもの個人間の差
- 子どもの1日単位の栄養摂取量(家庭の食事を含む)
に目を向けると、改善すべき点はあると思います。
年に一度の給食指導監査を、子どもの食事の内容を見直すきっかけにできたらよいと思います。
[まとめ]
- 給食指導監査は、行政が、子どもの健康維持・増進のために、保育園で提供している給食を監査し、必要な場合は指導を行い改善を求めるもの
- 具体的な方法は「子どもの食に関連した法令・指針」と「実際に提供した給食内容」を照らし合わせる。
- 監査の最重要項目は「子どもに必要な栄養素(量)が提供できているか」という点
- 栄養素(量)が適切でない場合は、園全体で献立内容について検討する必要がある
- 低年齢児の食育は、「給食(食べる体験)」が中心となるため、献立内容の検討は、保育園の食育課題として取り組むべき
- 年に一度の指導監査を、給食の内容を見直す機会と捉えて、園全体で給食の改善に活かす
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