
「”本物”の環境が育む生きる力。
おいしいとたのしいの好循環!」
Vol.12 中野みなみ保育園
USER NAME中野みなみ保育園
中野みなみ保育園の食育哲学と「おいしい」と「たのしい」の好循環


はじめに
近年、食の課題が深刻化する中、保育園の給食時間は、子どもが生涯にわたって食事を愛する「生きる力」を育むための重要な時間です。中野みなみ保育園には、里山のような自然豊かな園庭があり、「本物」の環境が子どもの感性を磨いています。同園の食育哲学は、「おいしい」が「たのしい」に、「たのしい」が「おいしさ」を深める好循環。この一貫した姿勢が、子どもの主体性と豊かな未来の「ねっこ」を育てています。本稿では、この喜びの相互作用を、行動理論の視点から解き明かします。
【解説:子どもの行動変容を読み解く PPモデルの視点】
本稿で分析の視点として使用しているPPモデル(Precede-Proceed Model)は、公衆衛生や健康教育の分野で用いられる、行動変容プログラムの計画・評価フレームワークです。中野みなみ保育園の食育の成功は、単なる熱意や工夫ではなく、この行動変容の3つの要因を綿密に設計し、子どもの「たのしく、おいしく食べる」という主体的な行動を促している点にあります。
| 要因 | 役割(食育への作用) | 中野みなみ保育園における意義 |
|---|---|---|
| 前提要因 (食べたい気持ち) |
意識・価値観:「食べたい」「食は大切だ」という気持ちや価値観を育む土台。 | 食育哲学の浸透:全員食の安心感、味覚の繊細さ、命への感謝という、揺るぎない食への肯定的な意識を植え付ける。 |
| 実現要因 (できる環境・スキル) |
スキル・環境:行動を「できるようにする」ためのスキルや、物理的な環境。 | 自立を支えるリソース:陶器、お米炊き、和食の型が、主体的な食の行動を無理なく実践できる環境とスキルを提供する。 |
| 強化要因 (続けたくなる応援) |
報酬・サポート:行動を「継続させる」ための褒め、成功体験、周囲の承認。 | 内発的な喜びの最大化:成功体験を可視化・承認する独自の仕組みが、行動を「習慣」へと昇華させ、次への挑戦意欲を継続させる。 |
第1章食育の土壌 – 「安心感」と「価値観」を耕す前提要因
子どもが「食は楽しい」と認識し、自ら食べ物に向かう(前提要因)ためには、まず環境的な安心感と、食に対する肯定的な価値観の確立が不可欠です。中野みなみ保育園の食育哲学は、「安全」「繊細な味覚」「命の尊厳」という普遍的な価値観を土台に築かれています。


1.1 全員食の哲学:リスク管理がもたらす最高の安心感
中野みなみ保育園では、アレルギー代替品を使わず、アレルギーがある子も除去品を除いた同じメニューを囲むことを徹底しています。この決断は、共食の喜びを育むと同時に、運営上の大きな効果を生んでいます。
足立園長は、「命にかかわるアレルギーを気にしなくてもよいことは、保育士の精神的な負担を確実に減らしている」と語ります。事故予防の面から見ても、手順確認や情報共有にかかる膨大な時間が削減され、職員の負担が軽減されます。この職員の精神的な余裕が、食事の時間を「穏やかな雰囲気」で満たし、子どもたちの安心感と一体感を育む最高の前提条件となっているのです。
アレルギー対応では「アレルゲンを含む食材を絶対に園に持ち込まない」という意識が徹底されています。特に、いつもと違うものを購入した際には、調理室(現場のダブルチェック)→園長→事務担当という厳格なトリプルチェックを徹底し、安全性を揺るぎないものにしています。
1.2 五感を満たす味覚の教育:だしが育む「食の豊かさ」
毎朝丁寧にとるだしは、子どもの食欲を自然に喚起し、自ら食事に向かう気持ちを育てます。「毎日、同じ時間にだしのにおいがして、『そろそろお腹がすいたな~』ってなってくる」という言葉の通り、嗅覚への働きかけが食欲を刺激する前提要因となります。
足立園長は、毎日とるだしは必ずしも一定ではないからこそ、「そのほんの少しの違いを感じとれることが、将来の食の豊かさにつながる」という哲学を強調します。きっちり同じ味を食べ続けるのではなく、多様な味を体験する価値を子どもたちに伝えています。
だしは、こんぶと厚削りのかつお節を基本に、沸騰後火を止めそのまま時間をかけて濃いだしを抽出します。さらに、そこに野菜を加え火をつけずに旨味を引き出し、弱火からゆっくり温度を上げて具を煮込むという、手間を惜しまない調理法を実践しています。新井先生は、こうした手間が、薄味でも子どもがおいしく食べられる土台となり、野菜への抵抗感を和らげ、汁物などをよく食べる結果に繋がっていると話します。
また、給食以外でも、寒い時にだしを提供し「今日はどんな野菜が入っていると思う?」と尋ねるなど、小さな食育を日常に根付かせています。寒い日に、外遊びの後に、給食の先生からもらう「温かいだし」の味は、単なる栄養補給ではなく、「見守られている安心感」や「心の安定」という、非認知能力の根幹を育む瞬間でもあります。


第1章つづき1.3 「本物の体験」が育む命と価値観
中野みなみ園の「本物を大切にした保育」という哲学は、食育において「命への価値観」と「食への知的好奇心」を育む強力な前提要因となります。


魚の炭火焼き(火育)
職員がウッドデッキで魚をおろし、園庭で炭火焼きにする体験は、「スーパーでも大きな魚を見ることもない」子どもたちの食への関心度を大幅に高めます。血が苦手な子は無理に近づけませんが、興味を持った子はじっと見つめ、命をいただく過程を肌で感じます。近隣の理解を得て行う「さんまの会」は、炭の煙の匂い、焦げたさんまの味といった五感に訴える記憶を刷り込み、大人になっても食への関心が持続する「豊かな経験」となっています。
食農保育
園庭で野菜を育て、米を作り、収穫し、脱穀して「豊年祭でおにぎりにして食べる」という長い月日をかけた食育は、「食が目の前にくるまでに、たくさんの時間と手間がかかっている」ことを自然に知る機会となります。子どもたちからは、「メチャクチャ酸っぱい木の実も興味から食べる」といった食を楽しむ主体的な姿勢が見られ、この実体験の連続が、「食は大切だ」という揺るぎない価値観を形成しています。


第2章自立と五感を磨く技術 – 「楽しく食べる」を実現する環境設計
「食べたい」という意識(前提要因)を「自ら主体的に、そして楽しく食べる」という行動(実現要因)に繋げるため、中野みなみ保育園は「完食」を目的とせず、主体的かつ楽しく食べるための環境と技術を提供しています。手間をかける価値や自立を促す技術を日常生活に組み込むことで、子どもたちの「食の楽しさ」と「豊かさ」を支える実現要因を整備しています。
2.1 毎日のお米炊き:主体的な食の「手間」を学ぶ技術
各クラスで子どもたちが毎日米を炊く習慣は、食への愛着と責任感を育む、貴園独自の実現要因です。
子どもたちは米を研ぐ、炊けるのを待つという一連のプロセスを通じて、「食は日常の営みであり、手間がかかるもの」ということを体感します。ごはんが足りない日には、給食室に「もっと食べたい!おかわりくださーい。」と自ら取りに来る姿は、この習慣が子どもたちの食への主体性を促している証拠です。この自立の行動が、「残す・残さないの判断も含め、食事に主体的に向き合える力」の基礎となります。


2.2 陶器の食器:「割れる本物」から学ぶ責任感
「本物を大切にした保育」という哲学の具体例が、割れる危険がある陶器の食器の使用です。
責任感とマナー
「落としたら割れる」という事実が、子どもたちに道具を丁寧に扱う責任感を自然に教えます。
手間をかける価値
栄養士の新井先生は、陶器の導入について次のように語ります。「陶器は、給食室の私たちにとっても、重くて扱いにくく、洗浄や収納に手間がかかるのは事実です。しかし、その『大変さ』こそが、食事には手間と集中が必要であるということを子どもたちに体感させる最高の環境的なリソースだと感じています。簡単に済ませず、食事の始点(配膳)と終点(片付け)に丁寧に向き合う経験が、そのまま質の高い学びの場へと変わるのです。」
2.3 和食の型:主体性を尊重する食事の構造
一汁三菜の型は、子どもが無理なく、自らの好きな形で食にアプローチできるための設計です。
明確な構造
主菜と副菜が明確で「何を食べているか」がわかることが、子どもが自ら食べ方を考える土台となります。食材を細かくし過ぎないことで、子どもに食を楽しむ余白を与えています。
完食主義からの脱却
「苦み、酸味の感じ方も異なる」ため、ひとりひとり味覚の発達に違いがあるという哲学から、残すことも許容しています。この主体性の尊重が、食への抵抗感を和らげ、「食を楽しむこと」を最優先させています。
ライブな味付け
さらに、クラスで副菜の味付けを子どもたちが味見をしながら行うことで、食に対する当事者意識と楽しさを増幅させています。




2.4 「食べたい」の瞬間に応える、給食室の飽くなき挑戦
献立作成における柔軟な対応は、栄養士の絶え間ない探究心と、緻密な業務整理の賜物です。新井先生は、小麦が使えない環境下でも「子どもたちに多様な食体験を」と、米粉を使いこなすレパートリーを日々研究しています。アレルギーフリー献立のネタを探すため、常にアンテナを張り、時には子どもや保育士から出た「ポンデケージョが食べたい!」といったリクエストにも、試作を重ねて応える挑戦的な姿勢を貫いています。
新井先生は、「私たちは、子どもや保育士さんからたくさんの要望をもらうこと、それを受け入れる姿勢を何より大事にしています」と語ります。ただ決まった献立をこなすのではなく、その日の子どもの様子や季節の空気感に合わせてメニューを微調整する。この「ライブ感」こそが給食の醍醐味であり、保育士と協働して子どもの小さな声に応えることが、調理スタッフにとっての大きなやりがいとなっています。
こうした柔軟な対応を支えているのは、調理現場での徹底した効率化です。手順をミリ単位で整理し、無駄を削ぎ落とすことで、突発的な要望にも笑顔で応えられる「心のゆとり」を自ら創り出しています。新井先生たちは、このプロの段取りがあるからこそ、子どもたちの「やりたい!食べたい!」という熱量に、最高の形で応え続けることができているのです。
第3章
喜びと誇りが行動を継続させる仕組み
(強化要因)
獲得したスキルや意欲を維持し、生涯の「生きる力」に繋げるためには、行動を承認し、次への挑戦意欲を刺激する「強化要因」の設計が不可欠です。中野みなみ保育園は、「内発的な喜びの最大化」を目標に、独自の強化システムを構築しています。
3.1 「お箸記念日」:自立への挑戦を讃える報酬
「お箸記念日」は、子どもの努力と達成を目に見える形にする独自の表彰システムです。縦割り保育の中で、小さな子どもたちが憧れの「お箸記念日」を目にします。お箸が使えるようになると、特別に「賞状と箸」が授与されます。その箸を自分で削り(木育)、主任先生に名前を掘ってもらう「自分だけの箸(報酬)」がもらえることを、みんなが目標にしています。「はやくそこに行きたい」という強い刺激を受け、自ら挑戦します。
報酬は「正しい食具操作スキルを獲得したこと」に対して与えられます。紙飛行機を飛ばすユニークな祝福は、「お箸を使って上手にたべられるようになった」という達成感を、自己肯定感に深く結びつけています。
自分の箸を持つことで、食べる意欲に繋がります。一番のちからの見せ所は、食べにくい「さんま」を食べる時。この自信が次の困難な挑戦への意欲を継続させています。
3.2 内発的な喜びを強化する「ライブ感」
体験活動と食事を直結させる「ライブ感」は、内発的な喜びを深くする最強の強化要因です。
収穫即時喫食
園庭で実ったものを「とって食べる」というライブ感を重視し、「食べたい」という子どもの気持ちを大切にしています。
体験の深化
魚さばきや火育を通して、自分が関わった食をいただくという達成感が「おいしかった」という内発的な喜びを深くします。「食べたーい!頂戴!」が響き渡る園庭は、活気に満ち溢れています。
日常への持続
この特別な体験で得られた食への興味や喜びは、その日限りで終わらず、その後の通常の給食にも継続しています。
3.3 職員の成長が支える好循環
この好循環の継続は、職員の意識と成長、そして園全体の組織文化によって支えられています。足立園長は、「保育をしていく、大人がそだたないと」と述べ、職員が食への意識を高く保ち、子どもの小さな声に応えることが、仕事のやりがいとなり、職員集団の成長と定着に繋がっています。「正直、担任が食べることが大好きで食欲があると、そのクラスの子は食べることが好き」という言葉は、大人の楽しむ姿勢が、子どもへの最高の強化要因であることを示唆しています。
左から、大澤幸枝先生、草野和恵先生、新井晴菜先生、佐々木由宇先生、三浦みなみ先生
まとめ:おいしさとたのしさが紡ぐ未来の「生きる力」
中野みなみ保育園の食育は、単なる栄養摂取やマナー指導の枠を超え、子どもたちが自分の人生を豊かにする「生きる力」そのものを育んでいます。
「私たちは、子どもたちに『教える』ということではなく、試行錯誤しながら、一緒に学んでいます。やってみて、驚いたりしながら、一緒の生活をしているという感覚ですね。」
足立園長
「食が子どもたちの身近なものであればいい。大人になって、食べたいものを考えたり、作ってみたりということが、日常のプラスアルファになっていけば、それが豊かさ、楽しみになるのかなあ。体が、そして心が満たされることは、そのまま豊かさです。保育園で経験したことが、子どもたちの人生の楽しさにつながっていってほしい。」
足立園長
現場のやりがいと園の哲学
この好循環を日々現場で支える新井先生からは、食が結びつける成長とやりがいについて、強いメッセージをいただきました。
新井先生
「子どもたちの『食べたい』という気持ちに応えてあげられることが、何よりの喜びであり、やりがいです。そして、子どもたちの成長、実際に体が大きくなったのは、自分が作った食事を食べてくれたからだという満足感が、また次の日への大きなやりがいにつながっています。」
足立園長と新井先生は、保護者に向けて「保育園で良い給食を提供するだけでなく、子どもたちと一緒に生活する家庭が変わっていくとよい」と考え、今後、保護者を交えて食べてみる、作ってみる機会を作ることを検討しています。「子どもを真ん中におき、一人ひとりがその子らしく生きていけるよう、人としての『ねっこ』を育てる」という一貫した姿勢が、「みんなで食べる喜び」を中心とした食の好循環を支え、すべての子どもの未来を支える確固たる基盤となるでしょう。
「『食は愛そのもの』という園の哲学を、若い感性で形にする栄養士の新井さん。園長の深い洞察と、栄養士の瑞々しい情熱が響き合い、新しい食育の形が生まれています。」
RECIPE
中野みなみ保育園 新井先生に聞きました
テーマは「素材の食感を楽しむ和食」です。一汁三菜の献立は、見た目が賑やかになる反面、味が混ざりやすかったり調理工程が複雑になりがちです。そこで、主菜に「炒め物」を持ってきた日は、副菜のひとつを「かぼちゃの甘煮」のようなシンプルな素材一品のメニューにすることで、味のメリハリと調理のしやすさを両立させています。
また、子どもたちが大好きな汁物には、大豆製品を含め3〜4種類の具材をたっぷり入れ、野菜を無理なく摂取できるよう構成。切り方ひとつにも「噛む練習」や「手づかみのしやすさ」といった、発達段階への願いを込めています。
豚もやし炒め
材料(3歳以上児1人分)
- 豚肉(肩)
65g
- もやし
35g
- 人参
7g
- しょうゆ
1.2g
- 本みりん
0.4g
- しょうゆ(調味)
1.6g
- 本みりん(調味)
0.8g
- 素精糖
1.6g
作り方
- 人参を千切りにする。
- 鍋に油(分量外)をひき、温める。
- 豚肩肉(3cm幅)を鍋に入れ、火が通るまで炒める。
- 人参を加え、炒める。
- 人参に火が通ったら、もやしを入れる。
- 調味料を加え、味が染みたら、適宜水溶き片栗粉(分量外)でとろみをつける。
※もやしに合わせて人参も千切りにして一緒に食べやすくしています。主菜の人参はいちょう切りを選びがちですが、千切りや短冊切りなど様々な切り方で提供することを心掛けています。
大根のはりはり漬け
材料(3歳以上児1人分)
- 大根
25g
- 素精糖
0.6g
- 酢
0.7g
- 素精糖(別途)
2g
作り方
- 大根はスティック状に切る。
- 調味料を鍋に測り、加熱しておく。
- スチコン〈スチーム100%〉で8分加熱する。
- 調味料に大根を漬け、冷やしておく。
かぼちゃの甘煮
材料(3歳以上児1人分)
- かぼちゃ
30g
- しょうゆ
0.8g
- 素精糖
2g
- 水
6g
作り方
- かぼちゃを1人1個になるように切り、深いバットに並べ、素精糖、しょうゆ、水を加えて蓋をする。
- スチコン〈コンビ100%・150℃〉で30分加熱する。
- 温度が90℃に達しているかを確認し、そのまま蓋をして10分程度置き、味を染み込ませる。
みそ汁(厚揚げ・里芋・人参)
材料(3歳以上児1人分)
- 厚揚げ
9g
- 里芋
7g
- 人参
7g
- かつお・昆布だし汁
120g
- いわし(煮干し)
0.5g
- 十割こうじ味噌
4g
〜おだしの旨味と、たっぷり具材の安心感〜
当園のお味噌汁は、まず水から昆布と厚削りのかつお節を入れ、じっくりと旨味を引き出すところから始まります。沸騰したところで一度火を止め、30分ほど置いておくことで、雑味のない濃厚な「黄金だし」を抽出しています。その後、具材を加えてからは弱火で一時間ほど、時間をかけてコトコト煮込みます。じっくり加熱することで野菜の甘みが引き出され、だしの風味と調和した深い味わいに仕上がります。
りんご
材料(3歳以上児1人分):りんご 30g(1/8個)
※りんごは誤嚥(ごえん)のリスクが高い食材です。1歳児は1/8カットをさらに薄く3等分し、0歳児は小さく切って柔らかく煮ることで、丸飲みによる窒息や誤嚥事故を防いでいます。
〜「食の安全」が育む、のびのびとした食育環境〜
私たちの給食作りと食育活動の根底にあるのは、「子どもたちが一生涯、安心して食を楽しめる環境」を守ることです。食材は国産のものを中心に選び、調味料などは「生活クラブ」を利用するなど、素材そのものの質を大切にしています。
当園の大きな特徴は、アレルギーの原因となる食材を給食や食育活動に一切持ち込まないという徹底したリスク管理です。これにより、アレルギーを持つ子も持たない子も、同じテーブルで同じメニューを「おいしいね」と笑い合いながら囲むことができます。この安心感は園庭の環境にも反映されており、植えられている木の実や果物もすべてアレルギー源ではないものを選定。子どもたちが自分の手で収穫し、その場で自由に味わえる「のびのびとした食育」を実現しています。
〜多職種の視点で繋ぐ「食べる力」へのステップ〜
子どもたちの「食べやすさ」は、日々の成長とともに変化します。当園では月に一度、「給食会議」と「離乳食会議」を開催し、喫食状況を細かく振り返っています。この会議には、栄養士だけでなく保育士、看護師も出席するのがこだわりです。それぞれの専門的な視点から「切り方は適切だったか」「硬さや味付けはどうだったか」といった意見を交わし、翌月の調理工程へと即座にフィードバックしています。
〜段階的なステップアップの仕組み〜
特に離乳食の進め方には細心の注意を払っています。次の形態(例:初期から中期)へ移行する際は、1週間ほど現在の形態に次の形態の食事を少量添えて提供します。
- 確認のポイント:「正しく噛めているか」「スムーズに飲み込めているか」を、保育士と連携して一人ひとり丁寧に確認。
- 完了期への配慮:噛む力が未発達な完了期の移行期には、鶏もも肉を「鶏ひき肉団子」に、豚肩肉を「豚ひき肉団子」に変更。素材の旨味はそのままに、飲み込みやすさを優先した工夫を取り入れています。
NOTE編集後記
加藤 久和(アドム株式会社 代表取締役社長)
小さな丘の斜面に沿って作られた小道を登っていくと、食べられる木の実をいっぱい実らせた樹木が優しく子供たちを出迎える。初冬のきんと張り詰めた空気の中で、干し芋や干し柿が吊るされている。子供たちはそれをみて「干し芋食べたい」と口々に叫ぶ。干し芋は子供たちと掘って収穫したものを園で蒸したものだ。
私は、この光景を聞いたとき、自分が子どもだった頃、祖母が軒先で干し柿を干しているのをねだって食べさせたことを鮮明に思い出しました。71歳になった今も、60年以上昔の光景を鮮明に思い出します。食べ物の食感や匂い、甘さやそれを受け取った時の喜びは今でもよみがえります。そして、その時に一緒にいた、祖母や母の存在もかけがえのない宝となって晩年を迎えています。それほど、味覚や匂いの思い出は強烈です。
こんな素朴で、日本人が昔から大切にしてきた宝のような自然の恵みと大人たちの愛情を、今も東京のど真ん中で大切にしていらっしゃる園があることに、本当に驚き、そして感動しました。日本人が大切に守ってきたことが何かを改めて感じます。
日本人は自然の恵みを大切にしてきた。それを守っていくことが、子どもたちに「大切な贈り物をすること」だと、中野みなみ保育園は教えてくれました。子どもは食べ物で育ちます。単に栄養だけではなく、食べ物が運ぶのは愛そのものです。そんな愛に包まれている保育所は、本当にかけがえのない日本の宝物だと改めて思いました。
【読者への提言:AI時代と食育の価値】
この素晴らしい実践は、決して特別な施設だからできたことではありません。行動理論で読み解くことでわかるように、「誰でもその気になれば、この豊かさを生み出す食育環境を作れる」という確信を与えてくれます。なぜ、今、中野みなみ保育園の実践がこれほど重要なのか。それは、知識の記憶や正確な反復がAIに代替されつつある今、人間が本当に育むべき「問いを立てる力」「意味を見出す力」という、真の生きる力の価値をこの園が静かに体現しているからです。
私たちのアドム「わんぱくランチ」は、単なる省力化ツールではありません。技術面で現場を補佐し、この子どもの健康行動を生み出す環境を作る思想をサポートするソフトです。この機関紙で本物の食育の実践を紹介できたことを、心から誇りに思います。
── 中野みなみ保育園の教育理念と、AI時代における教育の再発見 ──
中野みなみ保育園の教育理念として掲げられる「異年齢保育」「生活重視」「主体性重視」「環境重視」「発見学習」は、単なるスローガンではなく、きわめて一貫した教育思想に基づいています。
ジョン・デューイは「教育とは生活そのものであり、学びとは経験を通して意味をつくり直す営みである」という教育思想の核心を提唱しました。しかし、高度経済成長期のフォード主義的社会が、規律と均質性を求める中で、デューイの思想は制度に適合しない要素として後景に退いていきました。保育所は本来「生活を保障する場」であるため、生活を重視し、主体性を尊重し、経験を通して育つ力を大切にすることは必然でした。中野みなみ保育園の理念に掲げられている「生活重視」「主体性重視」は、まさにこの文脈に位置づけられます。
中野みなみ保育園の実践は、デューイの言うLearning by Doing(為すことによって学ぶ)を、そのまま生活の中で実装したものだと解釈できます。子どもたちは「食べる」という行為を通して、命をいただくこと、待つこと、選ぶこと、失敗することを経験し、その経験の循環そのものが学びになっています。
AIによって知識や技能が代替されつつある今、人間に残る価値は、問いを立てる力、意味を見出す力、不確実性に耐える力です。これらはデューイが教育の中核に据えてきた能力であり、中野みなみ保育園の教育理念と実践は、そのことを静かに示しています。デューイは、人が生活の中で学び続ける存在であるという前提を、徹底して信じた思想家です。わんパックンが記録しているのは、理論としてのデューイではなく、生活として実装されたデューイの姿なのかもしれません。



























