わんぱくランチユーザーから料理のとろみ付けについて質問をいただきました。
「片栗粉でとろみを付けた直後はトロトロなのに、子どもが食べる時には、とろみが無くなり、サラッとしてしまう。いったい何が原因なの?」とのこと。
今回は、調理の「とろみ付け」について復習します。
■とろみの効果
とろみは素材や料理のおいしさを引き立て、温かさを保つだけでなく、、、
咀嚼・嚥下機能が未発達な低年齢児にとっては、食べやすさにつながる要素です。
とろみがあると
- 食材をまとめてくれる
- 食材ごとの特有の味を感じにくくなる
- 食感がよくなる
■デンプンの種類と特徴
とろみの素となるのはデンプンです。デンプンの粒は、水を加えて加熱されると次第に膨潤し、膨らんだデンプンは互いに接触しながら動きます。とろみは、デンプンの粒が膨らみ絡みあうことで生まれます。
ここでは、デンプンを2種類に分けて、「粘度」「安定性」「透光度」を比較します。
- 地下の根茎からとれる地下デンプン(じゃがいも・さつまいも・キャッサバ)
- 地上にできる種実からとれる地上デンプン(米・小麦・とうもろこし)
<粘度>
粘度に影響を与えるのはデンプンの膨潤度です。膨潤度が高いほど、粘度があがります。
地下デンプンは膨潤度が高く、粒が膨らみやすい特徴があります。特に片栗粉は、他のデンプンに比べて著しく粘度が高くなっています。
一方、地上デンプンである小麦粉や米粉は膨潤度が低く、粒が膨らみにくいため、同じ濃度では地下デンプンに比べて粘度がかなり低くなります。
一般的に「とろみ」と言えば、片栗粉が思い浮かぶ理由は、片栗粉の膨潤度が高く、しっかりとした粘度をだすことができるからです。
<安定性>
ここでは、粘度(とろみ)がついた状態を保つ点に注目します。
地下デンプン(片栗粉)は、地上デンプン(小麦粉・米粉)より安定性が低いという特徴があります。
片栗粉はデンプンの粒の膨潤が最高に達してからも加熱を続けていると、粒がつぶれたり、ちぎれたり、壊れたりして粘度が低下します。つまり、一旦、とろみがついても、加熱を続ければ、サラサラになってしまうということです。冷めたものを再加熱すると、とろみがゆるくなってしまいます。
その一方で、地上でんぷんである小麦粉、米粉は加熱を続けても粘度の低下は少なく安定しています。小麦粉を使った「シチュー」は温め直しても、とろみが無くならないのはこのためです。
<透光度>
片栗粉などの地下デンプンは、透光度が高く、とろみ汁やあんかけ料理に使われます。そして、透光度が低い小麦粉などの地上デンプンは、シチューなどに使います。地上デンプンが不透明なのは、共存するたんぱく質、脂質及び他の不純物も影響していると考えられています。
■とろみ付けのデンプンを使い分ける
調理ではデンプンの「粘度」「安定性」「透光度」など、それぞれの特性に合わせて、使い分けています。
最近では、食物アレルギー対応のために、小麦粉の使用を控えている園が多くあります。小麦粉の代替としては、同じ地上デンプンである「米粉」を使って、とろみを付けることができます。
小麦粉は、水溶きで加えることができませんが、米粉は、片栗粉なのように、最後に水溶き米粉でとろみをつけることができるので、とっても便利です。
■給食でよくある失敗
今回、子どもの食事研究所にいただいた質問は、
「片栗粉でとろみを付けた直後はトロトロなのに、子どもが食べる時には、とろみが無くなり、サラッとしてしまう。いったい何が原因なの?」という内容でした。
ネットで「片栗粉・とろみ・失敗」と検索すると、、、
「片栗粉は、加熱が不十分だととろみがつかない」という内容が多くみられます。
しかし、給食では「加熱不足」は起こりにくく、さらに今回の案件では、調理室ではトロトロになった!ということなので、これには該当しません。
考えられるのは、過加熱。デンプン粒は、加熱されると次第に膨潤し、粘度が高まるわけですが、その膨潤が最高に達してからも加熱を続けると、粒がつぶれたり、ちぎれたりして粘度が低下します。
ここで、「イヤイヤ。とろみがついてから、そんなに加熱することはないでしょう。」と思うか方もいると思いますが、、、、
回転釜などで、大量に調理をする場合、火をとめても温度が下がらず、加熱状態が続いてしまうことがあります。
通常は切込み等、下処理に時間を要するため、調理終了事項は提供時刻ギリギリになってしまうケースが多いのですが、、、
未満時の提供時刻に合わせて作り、そのまま回転鍋に入っていた料理を以上児に提供するといったことはあり得ますね。
また、最近はHACCPの考えを取り入れた衛生管理が求められるようになり、調理工程に合わせた温度管理の中で、60度以下にならないように、一度仕上げた料理を、再加熱をすることがあり、その際に、片栗粉のとろみがなくなってしまうことが、多く起こっているようです。
これを防ぐために、みなさんが行っていることは、、、、
提供時刻に合わせて、未満児と以上児の料理のとろみは別々につけたり、「あん」だけを別で作って、提供前に「あん」を混ぜ合わせるなど。いろいろ工夫しています。
以前のように、出来上がり時に、回転鍋から各クラスごとに食缶に分けてしまえば、片栗粉の過加熱は起こりませんが、提供までに30分以上かかる場合は、別の方法で、安全と料理の質を確保しなくてはいけません。(HACCPの考えを取り入れた衛生管理より)
ある園では、園児数が多く、再加熱をしながら配膳をする以外の方法がないとのことで、複数回にわたり、片栗粉でとろみをつけているそうです。
子どもの食事研究所では、加熱をしても変化がなく安定している「米粉」をよく使います。カレーやシチューには小麦粉の代替品として米粉を使い、その他の料理でも、「米粉」をとろみとして使っています。片栗粉に比べて、糊状になり、濁りがありますが、ご飯にかけるようなものであれば、特有のネッチョリ感も気になりません。安定性が高く、再加熱ができる利点があります。
■さいごに
今回、質問をいただいた園は、200食以上提供している施設でした。
「片栗粉でとろみを付けた直後はトロトロなのに、子どもが食べる時には、とろみが無くなり、サラッとしてしまう。いったい何が原因なの?」
この園の原因は「過加熱」だと思います。
給食では、調理終了時には、とってもおいしかったものが、食べ時には変わってしまっている!ということが起こります。
保育所における食事の提供ガイドラインの「評価」にもあるように、食にかかわる(調理担当者・栄養士)が子どもの食の状況を見ていることは、とても大切です。
子どもの食べ具合をみれば、課題を見つけて工夫することができますね。
2021年6月よりHACCPの考えを取り入れた衛生管理が完全実施となり、加熱のタイミングや冷却方法を変えることで、予想外のことが起こるかもしれません。実際に食べることも姿を見ながら、安全でおいしい給食を提供することの大切さを改めて感じます。
子どもの食事研究でも、保育園の調理環境に合わせたレシピ開発に力を入れていきたいと思っています。
参考図書:『調理と理論』同文書院
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