2019年1月29日

内容

アレルギーを考慮した献立作成と調理のコツ

講師

佐橋 祐佳里

会場 平塚市役所
参加人数 35名 主催 神奈川県保育所栄養士会研修会

2019年1月29日、神奈川県保育所栄養士研修会で「アレルギーを考慮した献立作成と調理のコツ」というテーマでお話をさせていただきました。

今回のお話の中心は、「大量調理のコツ」です。

私は、わんぱくランチを通して全国の保育園の先生とお付き合いさせていただく中で、調理担当者の調理技術が、アレルギー対応に大きな影響を与えていると感じています。

その理由は、園に在籍している子どもの実状、納入された食材に合わせて料理をつくる調理技術があれば、食物アレルギー対応のハードルがグッと下がるからです。

近年の保育園のアレルギー対応では、園児のアレルゲンの使用頻度を減らしたり、使用しない料理を提供して、アレルギー事故のリスクを下げることが一般的になってきています。

アレルゲンを使用しない“おいしい料理”で、しっかり栄養補給ができれば、一石二鳥。安全なアレルギー対応ができるというわけです。

 

■子どもの実状に合わせた食事と支援

 

セミナーでは、健康でおいしい給食を実現する上での「制約」について整理しました。制約は食物アレルギー以外にたくさんあります。

  • 子どもは食経験が少ない
  • 新しいものに対して抵抗感が大きい(新奇性恐怖)
  • 食べることができる量が決まっている
  • 咀嚼・嚥下機能が未発達
  • 食事に集中するまでに時間がかかる
    など・・

 

子どもたちは、生まれた時から何でもおしいと思えるわけではありません。実際に食べる体験をとおして、味覚と嗜好を獲得していきます。特に酸味や苦味などは、何度も食べる中で、安全だということがわかって、自ら進んで食べることができるようになります。

新奇性恐怖に対しても同じです。動物には、命を守るために、まずは新しいものを避ける!という本能が備わっていますが、これも食べる体験を繰り返す中で解消します。実際に食べなくても、常に近くにあって、目にしているだけでも、抵抗感がなくなり、好きなる!ということもあります。(単純接触効果)

新入園児にとっては、給食の中に、新しいものが盛りだくさん!調理の工夫と共に、個々の子どもに対しての食事支援が重要です。

 

食べる量の制約については、WHOのガイドラインには、乳幼児は、体重1キログラムあたり、30mlしか食べることができないと考えるべきである。と記載がされています。子どもの食事では、栄養密度が重要。これは、献立レベルだけでなく、調理の時点で栄養を逃さない調理をすることが大切です。

 

咀嚼・嚥下機能が未発達な点に対しては、調理の工夫で食べやすくすることができます。大きさ、固さなどを調整します。噛むことに疲れて食べ飽きる!ということもあるので、一つの献立の中で、食べやすい料理とがんばる必要がる料理を組み合わせるなどの工夫も必要です。

 

そして、乳幼児の特徴として、「食べることに集中するまでに時間がかかる」ということがあります。午前中に行事があったり、生活の中でいつもと違ったことがあると、食事の時間になっても気が散ってしまい、食事を食べ進めることができません。子どもの活動に合わせた食事内容にすることも大切です。

 

子ども側の制約を見ると、給食を食べる!食べない!の問題が、“料理のおいしさ”だけに依存しているものではないことがわかります。

保育士さんとの連携も、欠かせません。

子どもの3大アレルゲンは「卵・乳・小麦」。これらは、子どもが家庭でも食べなれている食材なので、これを使用しないことで、食事支援が難しくなりますが、その一方で、いろいろなもの食べることができ、味覚と嗜好を獲得するチャンス!と考えることができます。

 

■納入された食材に合わせて料理をつくる調理技術

 

大量調理では、その特性を充分に理解した上で、食材の特徴に合わせて調理をすることが大切です。また、同じ食材であっても、季節ごとに違いがあり、さらに品質にも違いがあるため、それを見極めて調理をする必要があります。

今回のセミナーでは、

  • 大量調理の特性と各調理法におけるコツ
  • 2020年の食事摂取基準改定にむけて
    →減塩のための調理のコツ
    →魚をおいしくたべるための調理のコツ
    →野菜をたくさん、効率よく摂取するための調理のコツ
  • 食物アレルギーに対応するための調理のコツ

についてお話ししました。

 

■大量調理の特性と各調理におけるコツ

 

大量調理では、ぞれぞれの調理法ごとに

  • 食べやすくするコツ
  • 栄養を効率よく摂取するコツ
    があります。

例えば、「ゆで」の「ほうれん草の副菜」。

同じ野菜でも、時期によって産地、品種が違うことがあるので、調理の基本を抑えつつ、納品された野菜によって、処理を変えます。

まず、ほうれん草は、蓋をせずに、たっぷりのお湯でゆでることで、

  • 退色が進む40~50℃を一気に通り抜けることで色がよくなる
  • ゆでる際の蒸気と一緒に有機酸を揮発させて、嫌な味を残さない

 

そして、ゆでた後は、必ず野菜の味を確認します。ほうれん草は、水にさらすのが一般的ですが、栄養分が水に流出しています。

ほうれん草の「えぐ味」のもととなる、シュウ酸は、ほうれん草ごとに含まれる量が違います。シュウ酸にはカルシウムの利用効率を下げる作用がありますが、この妨害作用は、ほうれん草を1キログラム程度食べると起こるので、通常の摂取量では人体に害はありません。

ゆでた時点で、ほうれん草の味を確認するは、

  • 栄養分の流出を減らすことができる
  • 味付けに使用する調味料の量を決めることができる

という利点があります。

 

次に、味付けについて、、、

食べる直前に調味することが基本ですが、子どもが食べるころには水っぽくなってしまい、野菜の味が前面で出てしまうことが多々あります。

野菜の味を見て、子どもにとって食べにくい味が残っている時には、40g程度の野菜に対して油を0.4g程度加えると驚くほど食べやすくなります。緑黄色野菜に含まれるビタミンAは油との相性がよく吸収率もあがります。

さらに、野菜が苦手な子が多い時には、油を混ぜた後で、「しょうゆ」で風味をつけるより、「塩+ごま、かつお節、海苔」といったように、乾燥食材で水分がでるのを防ぐと、食べやすくなります。

このように「ゆで」だけでなく、「煮る」、「蒸す」、「焼く」、「炒める」、「揚げる」にもそれぞれ、「食べやすくするコツ」、「栄養を効率よく摂取するコツ」があります。セミナーでは、よくある大量調理の失敗例を上げながらお話しさせていただきました。

 

■2020年の食事摂取基準改定にむけて

 

次回の食事摂取基準改定では、健康のために、ナトリウム(食塩)の摂取量を下げて、ナトリウムを排泄する作用があるカリウムの摂取量を上げることが強く推奨されています。

また、脂肪酸、特にn-3系の脂肪酸の摂取量を増やすことが推奨されています。

 

今回は、

  • 減塩のための調理のコツ
  • 魚をおいしくたべるための調理のコツ
  • 野菜をたくさん、効率よく摂取するための調理のコツ

について、子どもの食事研究所で、実際に研究していること、実践していることについてお伝えしました。

 

減塩については、、、

食材の中で、子どもにとって食べることに負担がある食材、例えば、肉や魚など特有の臭みがあるものにダイレクトに味をつけることで、料理全体の塩分が少なくてもおいしく食べることができること。

それぞれの野菜の持つうま味(グルタミン酸・イノシン酸・グアニル酸)の相乗効果で食べやすくすること。

また、食感を考慮した食材の組合せなどについて料理例を具体的にお伝えしました。

 

野菜をたくさんたべることに対しては、不足しがちな栄養を補うことができる野菜を表で示し、パワーがある食材を、どんな料理に使うことができるのか。また。それぞれの野菜が持つ苦味を減らす方法などについてお話ししました。

そして、魚の摂取量を増やす!ということについては、子どもの食事研究所で出版している保育園用大量調理向けのレシピ本「和給食」の中から料理をご紹介しました。

 

神奈川県は、新鮮な魚が購入できる場所ということで、旬のさんまを使った「骨まで食べるさんまの煮つけ」には、とても関心を持っていただけました。

また、納入された魚の品質が良くない時には、適量の片栗粉と油を使って、焼くことで、臭みが揮発し、おいしさだけが残ることをお伝えしました。焼いた後で調味液をかけると、まるで煮物のような仕上がりになることには、ピンとこない点もあったようですが、昨日、参加者から、「保育園で実践してみたら、とってもうまくいきました!」とご連絡をいただきました。

 

■食物アレルギーを考慮した献立作成について

 

大量調理の基本を抑えた上で、最後にアレルギー対応を考慮した献立作成を調理についてお話しさせていただきました。

保育園では、乳幼児の3大アレルゲンである「卵・乳・小麦」の使用を控えることで、他のアレルギー(果物等)への対応の安全性が上がり、給食室での配膳ミス、保育室での誤食のリスクを下げることができます。

「乳・卵・小麦」の使用を控えるポイントは、

この3大アレルギーを

  • 使用しないメニューを増やすこと。
    →魚・大豆製品を使った料理を増やす
  • 使用しない調理法・材料を選ぶこと。
    →フライの衣、ハンバーグのつなぎなど
  • 使用しない加工品を選ぶこと。
    →ちくわ・ウインナーなど
  • 小麦をしようしないおやつを増やすこと。
    →米粉やビーフンを使ったおやつなど

 

「乳・卵・小麦」の栄養、見た目、調理性などに注目しながら、実際に保育園給食でどのように対応していくのかについてお話ししました。

その中でも、重要なのが、「豆乳」と「米粉」の使い方。豆乳では、豆乳のタンパク質は、固まる性質があることを考慮し、スープ、シチューなどでは、豆乳を入れる前に、味、とろみをつけること。

米粉では、粉の混ぜ方、水分の加え方によって、出来上がりの味と食感に差があることなどについて、関心を持って聞いていただけました。

 

■さいごに

 

子どもに食べさせたい「和食」をこどもにふさわしい調理形態で提供できれば、除去食品を自然に減らすことができます。

和食は健康的な食事です。

その和食を子どもに食べて欲しい!という気持ちを持って、

  • 食べなれていない料理を食べやすくする工夫
  • 減塩しながらおいしく食べる工夫

をしていくことが、大切だと思います。

 

今後も、子どもの食事研究所では、料理の研究を継続しながら、保育園給食に役立つ情報をみなさんにお伝していきます。